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(店は何年続いている?)えーと、あたしは二代目なもんですからね、ですから年数はかなり長いですよね。父親が関東大震災のとき師匠と別れて独立したんですよ。で、竜泉寺で商売始めて、父親の場合は小売屋さんに卸すのと、それから直接お客様の仕事と両方やってたの。で、私の代になって小売りになった。(小売りになった訳がある?)まあ、やはり商売しながらのことだから、量もできないし、それに社会的な状況にも、カーボンの竿だとか、グラスの竿だとか、そういうものも出て来たし、それで、問屋さんなんかもそういうものに力入れるように一時なりましたからね。(安いから?)まあ、大量生産できるものですし、いろいろね、あったんでしょう。それで、仲間仕事も煩わしいしね、でまあ。仲間で来て分けてくれって言えばね、出来てるものをお分けしたけども、こっちから仲間仕事をするっていうことは一切しなかったんですよ、ええ。二代目ですから、一応この業界としても結構、長いんですけどね。(竿富という屋号はお父さんの代から?)ええ、そうです。親父が富蔵っていいましたからね、それで竿富。うちはね、もともとは富蔵、富五郎との繰り返しの名前を継いでいったんですよね。で、私は次男ですから、兄が本当ならば富五郎っていうような話もあったんですけども、時代的にも合わなくなってきてるしね。兄はどっちかっていうと学問が好きで、それでそっちのほうへ進んじゃったから、それで私は子供の頃から釣が好きだったし、親の跡ついでやろうと、いうことで自然とそうなっちゃったんですね。で、私は中学卒業して、すぐこの道に入ったわけです。(もう何年?)ええ、今は六十二ですから。(釣に行く時間を惜しんで竿を作る?)ですからね、丸四年同業者の所に修行に行ったんですけどね、で、帰って来てからも、釣りに行くことは一向に、将来それが財産になるからっていうことで、二十歳代のころはもう、良く釣りやりましたよ。(自分でやらないと分からない?)そう。それと、ある程度釣りが出来るってことは、お客さんに対する信用度ってものがありますからね。それもあって、将来財産になることだから、釣りに行くなら、いつ行ってもいいと、いうことでかなり行きましたよ。で、もともとおじいさんが釣り好きでね、ええ。それでまあ、いろいろあって親父も、結局竿師になったんですね。(竿師!)竿師です、われわれはね。 ![]() ●釣る魚によって、ぜんぶ竿が変わります (材料は今どう?)材料はね、あるんですけどもねえ、結局切る人が今なかなか居ないんです。竹を切るっていうのは一年にいっぺんのことですから、いつでもいいってもんじゃないもんですからね。で、その関係上、切る人がね、もう他(ほか)の職業につくとか。昔は農家が暇になった時期に切るのがちょうど良かったんですよ。ちょうど十一月ごろから、竹が水分を吸収しなくなりますから、そのときに切った竹がいいんですよ。一霜当ててからとかいう風に言うんですけどね。そうすと虫が付かないんです。で、そんな関係で、初冬ですか。割合に竹は早くから水分吸いますから、二月頃になると竹はもう水分吸い始めんですよね。で、だいたい材料は九州物と、それから千葉、神奈川の物と、だいたいその辺なんです。その、竹の種類によってね。矢師の人は矢竹(やだけ)専門ですよね? で、私達も矢竹を使うんですよ。ただ、私達は、春生えたものを秋切って、その若い竹ね、身のいってない竹、そういう竹も使うんです。矢師の場合は完全にもう古竹(こちく)、何年か経ってるものを使いますからね。私達そういうものも使うし、「若」と称する、身のいってないものも使います。結局、長いものは重くなりますからね。そうすっと、身のいってない竹ならば軽くなる。そういうことでね。(太くならない種類?)竹っていうのはね、太さは一年で決りますから、ですからそれこそ直径十センチ、十五センチの竹も、直径一ミリの竹も、太さは一年で決るんです。年数が多いからって決して太くも長くもならないわけですね。(なんていう種類の竹?)ま、代表的なのは矢竹、丸節(まるぶし)、これはどっちも雌竹(めだけ)の部分、それからあと布袋竹(ほていちく)、淡竹(はちく)これは雄竹(おとこだけ)の部分ですよね。それから真竹(まだけ)は大体、割って削り出して、俗に言う削りっ穂(ぽ)の先、これ真竹を使うわけですね。(削りっ穂って何?)竹を裂いて、それを丸く削って、それで穂先にする、それが削りっ穂。(一本の竿で種類が違う竹を使う?)同じ魚を釣るんでも、別の種類の竹でやる場合もありますし。それから釣り竿は種類が多いんです、釣る魚によって、ぜんぶ竿が変わりますから。そいから同じ魚釣るんでも、釣り方が変れば変わるし。それから同じ釣り方しても、竿の長さというものは沢山ありますから。種類が非常に多くなるわけですね。 ●小さい魚でも、大きいもの釣ったような感覚に楽しめる はぜ竿は大体が中通しのものなんですけども、中通しっていうのは要するに、竹の中を糸が通っていくわけです。で、中には、外に環(かん)が付いて外通しの物もありますけど、大体、上物は中通しなんですね。これなんか今やりかけですけど、この先端から糸が出て来るわけですね。で、けっきょく中通しですと糸が、環が付いてないから、途中に引っかからないわけです。ですから非常に扱い易いわけですね。それで、はぜ竿は大体中通しってのが標準なんですね。(はぜは陸(おか)釣り?)ええ、本来は船でやるのが標準的なんですけど、この頃は陸でやるはぜ釣りが多いですけどもね。昔はもう陸のはぜ釣りってのは、お子さんとか、女の方とか、そういう方のおやりになる釣りで、はぜ釣りってのは船でやるもんっていう風にね。で、だいたい彼岸のお中日(ちゅうにち)から始めたんですよ。だからわたし達も、お彼岸のお中日っていうと、よくはぜ釣り行ったもんですよ。昔は、お彼岸のお中日のはぜは中気のまじないになるってね、よく言われてね。(海で漁師がやる釣りは別の世界?)あの、和竿は趣味の世界ですから、あまり大きなものっていうものでなく、小さい魚でも、大きいもの釣ったような感覚に楽しめると。(それは面白い!)ですから、小さな五、六センチ、中には三センチぐらいの魚も要る、あの小さなたなごも、みんな夢中になって釣るわけですよね。(魚の動きを竿を通して手に!)ええ、そうです。たなご釣りなんてのは、最も江戸前の釣りとしては古い釣りですよね。俗に、昔お殿様がね、その腰元の髪の毛を道糸にして、金の重りを使って釣ったと称される、釣りなんです。ですから非常に縁起のある釣りなんですね。 ●日本の竿を、外国でも知識人の人はわりあい理解するんですよね ![]() (外国と共通の竿がある?)そうですねえ・・・外国と共通ってのは非常に難しいんですがねえ。要するに今、フライとかそういうものは日本でも作っていますから、そういうものは共通しますけどね、うちでは純然たる江戸前の竿しかやらないからね、ええ。ただ意外と日本の竿を、外国でも知識人の人はわりあい理解するんですよね。(どういう風に?)非常にやはり、ある意味じゃ、技術的な要素もあるし、で、非常に繊細な釣りであると、いうようなことでね。まあ、これだけの品物(もん)ていうのは世界各国見ても、まず無いですからね。最近は中国あたりで真似して作ってんのも有りますけど、とても日本のレベルに追いつくものじゃないし。世界どこ探してもこれだけの物は無いですよ。(手をかけて作ったもの?)そうですね。イギリスにはハーデーっていうフライ竿があるし、今アメリカでも相当いい物が有るそうですけどね、純然たる竹の姿をそのまま生かした、しかも繊細な、きれいなね、そういう物というのは、まず無いですから。(外国人が買いに来る?)ええ、たまに来たことはありますけどね。ただ、そいじゃあ、この竿を持ってって、向こうで何を釣るかという問題も出てくるわけですね。でも、この間もあるカーボンのメーカーの社長ですけどね、たなご竿を買ってって、向こうの関係者にお土産に持っていくとかね、そういう事よくあるんですよ。(カーボンの社長が?)結局、カーボンだとかグラスの竿だったら、アメリカだの諸外国に持ってってもそんなにね。結局、日本の竿って言えばもう竹竿ですから。ただ大体、外国ではジョイント繋ぎのものが多かったわけですが、ジョイント無しで振り出しの竿だとか、そういうのは結局和竿からみんな出ているわけですよね。(振り出しって中に入ってる竿?)そうです。 ●意外と初心者が釣れることもある (釣り好き男の映画はどう?)うん、あれはあれで一つの釣りの啓蒙になりますから、いいんじゃないですか? 最初の頃なんか、非常に見てて面白いと思ったのは、やはり釣りっていうのは、小物においてはね、慣れた人に絶対にかないませんけども、ある程度大きいものってのは、意外と初心者が釣れることもあるんですよ。そういうような所も突いててね、非常に面白味もありましたよね。(あれも和竿?)ええとね、社長のスーさんが和竿買ってきてどうのこうのってね、片っぽのサラリーマンじゃとても買えない、っていうような場面もありましたけどね。まあ、竹竿ってのは、いい物って言ったら相当いい物もありますけども、実際に使える物で、そんなに高くない物も有るんですよ。釣り竿の場合にはね、カタログって非常に難しいんですよ、作り方によって全部値段が違いますから。私が作るんでも上物と、それから並物もありますからね。並物って言ってもそんなに安い物は作りませんけども。そういうふうに竹竿になじんでいただく方に、いきなりそう高価な物は無理ですから。ですから、いい品物で、ある程度安い物も作ると、いうことですよね。(作り置きもある?)あります。大体、注文の時に余分に作って、それを。(竿富の印はどこかに入る?)焼印が入ってますから。普及品で作った場合は焼印入れませんけどね、そうでないものは焼印入れます。 ●寸法に関しては正確ではないんです (竿のサイズは何で表す?)今はねメーターで言いますけどね、本来は尺なんです。でもこれはね、尺って言っても、正確じゃないんです、釣り竿の場合は。ですから三寸から五寸ぐらいまでが許容範囲に入るわけです。本来ふな竿なんかは、普通二尺切りってのが多いんですけど、六十センチ。そうすると五本継ぎで九尺、六本継ぎで十尺、七本継ぎで十二尺と組むんですから、当然そこで寸法がずれているわけですよ。それでいいんです、そういうことになってるわけですから。ですから寸法に関しては正確ではないんです。 ![]() ●釣り竿になる竹 (竿作りの手順は?)ええっと、工程はね、まず、切り組み。切り組みっていうのは、一本の竹で一本の竿ができるわけじゃないですから、十本だと十本竹を寄せ集めるわけですね。その竹を切り合わせていく、切り組み、これが最初の仕事。大まかに言って、それを火入れと一緒にやるわけです。それから今度は切り揃えが入りますけど、糸巻き、それから塗りに入って、それからつなぎに入るわけですね。で、それから後は漆を何回も何回もかけていく。(竿を手に)これが糸巻きの終わった状態です。大丈夫です触っても。これは絹糸の羽二重の五十番ですね。(細い!)こうやって巻くわけですね。それでこの上に漆をかけて、固めておいてからつなぎに入るんです。そのほか細かい工程ありますけどね。竹は、本来は業者が切って来るんですけどね。今は切る人が居ないので、自分達で切る場合もあるんです。(竹が生えている場所は?)釣り竿になる竹ってのは非常に、生えている中でも限られるわけですよ。姿がいいとか、節間がいいとか、硬さがあるとか、その条件によって色々違いますから。ですから、いわば女性の中でミス日本みたいな(笑)、そういうのを選ぶわけですよ、ええ。(でも秋だけでは仕事にならない?)切る人がね、ええ。(切るのは手間賃仕事?)ええ。それでかなり結構重労働ですからね、切るっていうのは。切って山から出してですからねえ。 ●一番肝心な事はバランスが取れているってこと (どういう竿が良い?)竿の良し悪しってのは、お客さんの好みがありますから、どういう調子がいいとか、こういう調子がいいとかは一概に言えないんですけども、やはり釣り物によって使いやすいっていう調子ももちろんあります。それと一番肝心な事はバランスが取れているってことです。要するに字でいう「く」の字のような曲がり方をするということは、いけないわけですね。自然に曲がっていく。胴から大きく曲がるもの、先端のほうが曲がるもの、それは色々あります。ですから、要はバランスが取れている、これが一番いい竿ですね。それと使ってそんなに癖の出ないもの、これは言えますよね。 ●最初から最後まで自分で (こうやって外していい?)大丈夫です。基本的にはそういう外し方が一番いいんです。真っすぐに引っ張りますと、ちょっと曲がることがあるでしょ? そうすると痛めますからね、ですから回して。(きれい!)これはもっときれいになりますよ、ここへ貝が入ってるからね。(貝が?)ええ、蝶貝が入ってるわけですね。光なんか当たるとキラキラ光りますしね。そう、螺鈿ですね。まあ竿師の場合には、ある程度自己流のところもありますしね。それから、竿師の塗りはね、歌舞伎の小道具から来てるのと、刀の鞘の塗りから来てる塗りが多いんです。(親方は両方やる?)まあ、親からも教わったし、丸四年同業者のところに居ましたから、そこの師匠の塗りなんかも教わったし。(自分で塗る?)そうです。竿師の場合はだいたい最初から最後まで自分でやって、分業ってのは無いんです。 ●飾って置いて、使ったり、眺めたり (この値段では若い人は買わない?)うーん、そうでもないんですよ。今ここに来ているこれ、はぜ竿のね、若いかたですよ。毎月二万円づつ積んで 、出来上がる時にはちょうどお金が全部入ってますから。(何ヶ月ぐらいで出来る?)注文を受けても、こっちの手順とか色々ありますから、半年先とか、一年先とか、そういう場合もあるわけです。で、お客さんのほうも急がないからと、じゃあ毎月、二万円づつでもいいから入れていったらどう? って言ったら、そうしてもらえればっていうことで。ですからこの人の場合、両方で二十万超しているんですけど、そういうような方法でね。(お金は振り込む?)ううん、だから遊びに来ながら。だって振りこんじゃ、お互いに・・・。向こうも来てしゃべって、楽しんでいって、ね。そいで来るたんびにそういう風に親しくなってくわけでしょ? (素晴らしい!)そういうお客さんも結構いるんですよ。中には二十万から三十万の金額のものを、まとめてぽーんと現金で下さる方もあるけども、でも私はそういう風に毎月毎月、いくらかずつでも積んでって、毎月来てくださる、そういうお客さん、歓迎しますよ。若いかたがいきなり十万だ、十五万だってね、そりゃ出せませんよ。景気のいいときならボーナスでね、一括払いとかあるけども、今そんな時代じゃないしね。(三十代前後の人が価値のあるものなら金を払うっていうけど?)ええ、そうなんです。そのかたもこれ終わったらほかの竿をやってもらいたいって言ってるんですけどね。長くきちっと飾って置いて、使ったり、眺めたりね、両方にしたいと。大いに結構なことだと思いますよ。眺めて楽しむことも必要だし。(時代によって需要が変る?)変わります。もう昔はなんていったって、年間作る数では、はぜ竿が最高に多かったんです。九月のお彼岸からはぜ釣りが始まって、大体年内ぐらいまでずーっとやってたもんなんですよ。で、非常にはぜ釣りってのは、競技会が盛んな釣りでしたからね。ですから、手に合う、合わないで、また作ってくれ、また作ってくれでね。それから初心者のかたがやる並物も相当な数があったし、で今は、非常にかわはぎ釣りってのが人気がありましてね。(今は釣りブーム?)うーん、若い人が良くやっているルアー関係がね、だいぶ今盛んですけども、ま、全体的にわれわれが作るような竿の場合は、横這いでしょうね。一時ちょっと落ちたんですけどね、今また、だいぶお客さんの理解を得られてね、横這い程度にはなってきていますね。 ●職人は一生勉強 (釣り談義とは別に竿談義がある?)ありますよ。私達にしたって、何んの釣りでも精通してるわけじゃないですから、ものによってはお客さんからよく釣りの状況なども聞いて、自分の勉強にもなるし、釣るかたの少しでも希望に叶うような物を作る、とうことでね。よく職人は一生勉強だって言うけども、それは本当だと思いますよ。やっぱり自分よがりになっちゃうと、いけませんからね。だからといって、そいじゃお客さんの希望をすべて何でもかんでも入れればいいかっていうわけでもない。やはり自分というものも残しておかなきゃいけない。で、だいたい焼印が入ってますから見ればすぐ分かるんですけども、それを見なくても、どなたが作ったかっていうのは、一流の竿師のかただったら分かるんですよ。「これは誰の作りだねっ」て言うと「ああそうです」ってね。 ●よその職人さんが作った品物 (修繕もある?)もちろんあります。(よそで作ったものも直す?)ええ、あります。結局わたしの作った竿も、場合によってはよその職人さんのところで直してもらうこともあるわけですから、よその職人さんが作った品物もうちでは、やはり直します。ただ物によっては材料が合わないとか、現在こっちで全然やってないから、そういう材料がないとか、そういうものはやむを得ませんけど、できる範囲の事はします。ただ、自分の技量に合わせた直しをしますから、それはやむをえませんけどね。 ●趣味の世界です (和竿を集める人もいる?)居ます、はい。昔から、愛好者が居て、集めているかたが居ますね。昔なんかはね、ほんとにいい物を欲しいってかたは、一年どころか五年、六年待っててもって言う人が居たわけですね。釣りの博物館あたり行くと、何年もかかって作ったという竿も飾ってありますけどね。ですからそれこそ、とても高価なものも有るわけですよ。ただ、一般的には使うもんですから、そういう物はある程度値段の限界がありますけど、昔のことで家一軒買えるぐらいの金額の竿もあるわけですよ。(昔の名人が作った竿?)ええ、ええ、年数はかまわず、気に入ったように出来たらという、趣味の世界ですから、これはもうね。今でも、もう長くいらしてますけど、毎年四、五本作るかたいますよ。うちへおいでになってから十年じゃきかないでしょうね。(その人は釣りにも行ってる?)行ってます。ですから本来ならば、釣る範囲が限られてますから、もう十分間に合ってるわけですよね? それでも毎年作りますね。(家で磨いたりして?)こっちとしても、今度は何の竿作ろうかなって考えちゃうことありますよ。この竿も作ったし、あの竿も作ったしってね。この前とてつもないもの作りましたけどね。ちょっと私も初めて作ったっていうような変わった竿作りましたしね。そういうかたは長年来てるから気性も分かってるし。なにしろ全体で(手を広げ)こんなもんですからね、それの四本継ぎで、外通しにしてくれって、でガイド全部つけてね、手元に象牙の糸巻き付けて。あれぞ正に趣味の究極じゃないですか? (ダイヤモンドを入れてくれなんて話はない?)それはねえ、竿に本来、銀までは使えますけどね、金はあまり使わないんです。やはり金になりますとね、ちょっと嫌味になるんですよ、ええ。ですからどうしても金を使う場合には、ごく細く入れるとかね、粋じゃなくなってくるんですよ。銀の場合でも大体が、銀をいぶして。 ●昔捕った鯨の髭 これは最高のせみ鯨の髭です。 昔捕った鯨の髭です。現在はもう全然捕獲禁止ですから、新しいものは入ってきません。また、せみの場合はおそらく、捕らないでこのまんまの状態でも絶滅するんじゃないかって言われているくらいですからね。いちばん利用価値が高い鯨だったらしいですね。からくり人形のぜんまい、あれがせみ鯨の髭です。せみ鯨の髭は長さがあって比較的まっすぐなんで、ぜんまいに使えるんですね。白ながすなんていったら、ものすごく大きい鯨だけど、ひげ自体は短いんです。(鯨にワシントン条約がある?)いや、ワシントン条約よりも、ひげのある鯨ってのは捕獲してないでしょ? まあ、一時イヌイットの人達が認められて年に何頭か捕っているという話もあるけれども、それも何くじらだか良く分からない。なんにしても私達としては、全然入って来ないっていうことは覚悟してるし、また法を破って捕るべきものでもないしね。ですから昔からあるものを大事に使ってるということです。(量はある?)まあ、せみの場合には、もう底をつき始めてますね。(代用品は?)代用品も出来てはいるんですけどね、やはり鯨の髭があるうちはなかなか他のものはね。ですから高級品になるとどうしても鯨の髭、特にせみの髭ということになりますね。(値段も高い?)そうですね、大体普通の鯨の約十倍以上の元値でしょう。(竿の中で一番高いのは鯨のヒゲを使った竿?)いや、竿自体として高いのは、小継ぎの数つないだ物ね。それの極上品はもっと高いですよ。ただ、竿の原料代としては鯨の髭はかなりですね。チタンを使ったって、そんな二万も三万もするわけじゃなですから。鯨の髭はもう二万、三万なんていうのはざらのことですから。太い物になると五万、六万しますからね。ただ幸い私は、私一代使う分は持ってますから、あまり高いこと言わないで、やってますけども。実際、これは十万で出している品物ですけど、髭を自分で今買って作るとなったら、そんな値段でできないです。これに使うんだったら、まず五万ぐらいしますから。(後継者まで材料が有る?)うーん、後継者がねえ、なかなか、まだ今のところ。経済上厳しいですからね。わたしも男の子二人いるけれども、二人とも別の業種に居ますしね。一人は勤め人で、一人は勤め人だけどもやっぱり職方(しょくかた)のが居ますけどね。できれば、いづれもう少し年取ってから仕込んでおけば、将来独立できんじゃないかと思っていますけど、今のところはまだ。業界の中でも後継者が少ないんで、非常に困ってるんですけどね。(何から何まで自分でやるには覚えることが多い?)そうですね。やはり大体十年やれば一人前にはなりますけども、それから先がなかなか難しいんですよ。要するに、お客さんの希望に叶うようなものが出来るかどうか、っていうことですよね。それと、お客さんがそれだけ信用してくれるかどうか。だから、実際には素晴らしいものを作っていても、お客さんが認めてくれなければどうにもならない ●たまには他人の竿も使ってみるんですよ (同業は多い?)大体ね、都心に居る人と、それから地方に行ってるかたがいらっしゃいますから。ま、地方っていっても近県ですけどね。ですからなんだかんだ三十くらいは居るんじゃないですか? 川口にはけっこう居ますから、それ入れればもっと増えますけどね。俗に東京職人と称する人達は少なくなりましたね。川口も減りましたけどね。昔は、上物は東京職人、並物は川口の職人という風に分かれてたんですけども、今は川口のかたもかなり勉強して、いい物を作るようになりましたからね。要するに仕上がった品物が良ければいいんですから。(竿に作る人の特徴がある?)みなさん一人ひとり特徴がありましてね。で、やっぱりたまには他人の竿も使ってみるんですよ。そうすると非常に、ほかの人の作った竿の良さっていいいますか、そういうのが分かりましてね。やっぱり自分の作ったもんだけ使ってると、分からないですからね。非常に実戦向きの竿とか、明らかに、どっちかって言うと鑑賞用の竿であるとか、いろいろありますからね。で、やはりその人、その人によって得意とするところがあるんですよ。その得意とする竿なんかは、非常にいい調子に出来てましてね、勉強になることありますよ。(特徴は自然に出る?)得意とするかたは、多くそういう竿を作ってますし、その釣り自体も良く分かってらっしゃるからね。ですから、いろいろと自分で使ってみると、見た目よりもはるかに内容の良さが分かるんですね。(親方の竿は?)私は私なりに自分でさんざん釣りしましたから、実戦に合うようなものが多いんですけどね。でも、矢張りある程度お化粧も肝心ですからね(笑)。 ●楽しいですよ(笑)、仕事は (年に何本作る?)そうですね、年に五、六十じゃないかな。そんなに数は作らないです。まあね、お金は残んないけど、好きな仕事して。(好き?)楽しいですよ(笑)、仕事は。 |
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