創業は昭和八年
(創業何年?)(父)創業はね、おじいさんが一代で、私が二代で、息子で三代だけ ど、創業は昭和八年。だから、六十七年。(お父さんは子供の頃からずっと?)ええ
、そうですけども。(息子さんは?)子供じゃないですね。でももう、やって十年くらい経ちます。(みなさん後継者難?)多いでしょ。(勤めてから戻ってくる人も多
いみたい?)やっぱり、ひなは良いやって言ってね、大学出てね、遅くなっちゃって ね、戻ってきたのも何人かいますよね。(おたくの息子さんは。)うちの息子はね、
飯田橋の工芸高校出たんですよ。木工科専門だったからね、割と早かったんですよ。 うちの一代目のおじいさんが居る頃からね、ちょっと五年ぐらい習いましたからね。
だから、結構役に立ってますよ、自分でスムースに行くようになったから。(何歳?)三十八、三十八。(子)三十九年生まれですよ。(父)ああ、三十九年生まれか。
わり(悪)いな! 子供の歳も忘れちゃいけねえ。

十年やらないと一人前にならない
(息子さんも一人前?)ええ、も う作る。昔からね、十年やらないと一人前にならないって言うけど、実際昔の言うと おりですよね。なにしろ、やっぱり材料の吟味が大変なんですから、段取りが。それから始めましてね、それがもう出来るようになれば、1人前なんです。まあ、家具ばかりじゃなくて、何でもそうですけどね。
(材料もだいぶ持ってる?)(父)持ってます。じゃないと、乾燥させなければなら ないから、大変なんですよ。まあ、家具ばっかりじゃないと思うんですけどね。家具は木を乾燥しなくちゃなんないですから、大変なんですよ。で、この江戸指物は国産きり(=だけしか)使いませんからね、日本の材料ね。(唐木は使わない?)うん、
唐木は、また専門ですからね。(材質はどんなのが好き?)(子)まあ、何でも好き ですね、ケヤキも良いですし、桑というのはやっぱり最高にいいですね、なかなか数
も少ないですし。(使って難しい木もある?)意外とね、杉が加工しづらいですよね 。柾(まさ)はそうでもないんですけど、木(もく)になってますと、柔らかいとこ
ろと硬いところになっている。芽は硬いんですけど、まわりのところは柔らかくて、 削りづらいですよ、一番。 (最近はどういうものが売れる?)(父)どういうものかっていうと、最近はですね
、机なんかがよく出ます。(机?)文机(ふづくえ)。あとはテーブルなんかボツボ ツ、食卓ですね。
だからホテルなんかの飾り物になっちゃう
(長火鉢はちょっと趣味的?)長火鉢はちょっとお値段も張りますから、実用的にもいかないし。だからホテルなんかの飾り物になっちゃうんです。ロ ビーかなんかに置きましてね。実用的じゃないですから。昔はみなどこでも欲しがっ
たようですけど、中にはあれですよ、おうちに仕舞っちゃってる人もいますよ。 (高校を卒業してから仕事を?)(子)そうですね。(当然そうなると思ってた?)
うーん、そうですね、あんまりサラリーマンでなにかっていう夢も無かったですから 、小さい頃から、いろいろ先代とか見てますとね、面白そうだなあって。(作ることは好きだった?)いや、そうでもないですね。まあ、見てて、やってないから、簡単
にできるんだろうぐらいに思ってたんですけどもね、やっぱり最初はぶつかりますし ね。ここ十五、六年きまして、ようやっと。自分の好きな形ができたり、木材読んだりってのはなかなかね。ほんと、一生の仕事ですけど、そういう面白味がやっと分かってきたとこで。(職人は儲からない?)いや、そりゃ儲からないとは思いましたけどもね。まあ、金ばっかりじゃないなと思いますし、今もやっと生活しているようなレベルですけどもね。(父)絶対、職人さんなんってものはお金の無いものだから。
(飲んじゃった?)指物屋さんは昔は特に貧乏ですから。よく時代劇なんかでね、指物屋さんが出てくるんですよ。職人さんはね、畳屋さんとか魚屋さん、みんな長屋に住んでいたんですから。壁と壁の間に穴が空いていて、隣が見えるぐらいだったから
、昔はね、ひでえもんでしたよね。生活はね、その点、気楽になったけどね。(子) ただやっぱり、木工としての面白味ってのは、指物はかなり組んでますし。で、今若い子がひとり、一年ちょっと来てるんですよ。だから、昔のような時代は来ないんですけど、ただ産業としてね、やっぱり自分もそうですし、彼なんかもそうですけど、
しっかり育てていかないと。やりたい子はいっぱい居ると思うんですよ。職業訓練校なんかもあったりして、やっぱり産業として成り立つような。職人だから金無くていいんだじゃなくて、昔ながらのそういうのじゃなくて、産業としないといけませんよ
ね。
機械作りで作れてしまう時代 
(でも時代と共に変化する?)やっぱり手作りだから、手間かけて、時間かけて作ってますから、価格的にはどうしても高くなってしまうってのは、これはどうしよ
うもないわけであって、数から見ますとね、機械作りで作れてしまう時代なんで、わ れわれは木目を選んで一から十まで丁寧にやっているとなるとどうしても高くなって
しまう、高級化になってしまうってのがね。まあ、こちらとすれば、ぎりぎりの線のお値段でやっているつもりなんで、その辺はなんともならないんですけれども。ただ
、その時代にそぐうような物ってのは、やはり茶箪笥とか、鏡台っていう、昔の婚礼調度ってのはもう無くなったわけなんですよ、今は。で、茶箪笥屋とか、鏡台屋とか
、専門に作っている所もあったんですけれども、そんなのだけでは食っていけません し、何でも注文で受けた限りは作るというスタイルが有ったから、うちなんかは生き残ったと思いますしね。これから、やっぱり住生活なんかも、かなり時代と共に違っ
て来ますしね、その中で置ける指物を目指さない限り、「茶箪笥でこの良い木目を使 いましたよ」って言いましても、なかなかね、茶箪笥を使うスタイルが無いですから
。まあ、茶箪笥に代わるような、たとえば大黒柱(※大黒柱を模した収納家具)なん かそうなんですけれども、まあ洋間でも置けるような、簡単に言いますとね、指物技
術を駆使しましていろいろからくりを用いましてね、デザイン的にも。
若い人も結構好きな人いるんですよ
(若い人が手作りが安いと思うといい?)車だって十年経つとゴミになっちゃうんだし、パソコン なんかも三、四年でもうゴミですよね。ゴミ買ってゴミ出してるんですから。だからわれわれのは何十年やってきて、あそこにもありますけど、またメンテナンスすれば
、孫にあげるとか、使ってもらうとか、ほんと代使えますよね。(古い家具を使っ てる人も減った?)(父)減りましたね。(子供は古いから嫌で捨てちゃう?)教えるって言うか、昔、こういうのが有ったんだよっていう、日本の伝統の重みを残さな
ければいけないと、さかんにピーアールしてるんですけどね。若い人も結構好きな人 いるんですよ、こういう渋いのが好きだというね。人間はだんだん年取るのが順番だから、なるべく若い人に買ってもらえるようにしてるんです。だいたい若い時は駄目
ですね、こういうものは。まあ六十過ぎぐらいになると、こういう質のいい物を置い て、飾って、人間のやっぱり心理ですね。六十前の人は、子育てなんかで駄目ですよ
、どうしようもない、欲しくてもね。きのう居たんですよ、一人、テーブル買いたい って。まだ、子供は五歳とか三歳ぐらいだから、こっちから逆にね、そんなお子さん
いたらすぐ傷ついちゃいますから無理ですって、こっちから断るぐらいで。なんか親父さんがだいぶ欲しそうなことを言ってたけど、こっちのほうが断って。(でも傷ついたら修理できる?)できますけど、小学校の子供は、中学あたりでも、いろいろと
お金がかかりますでしょ? いろいろ教育によってね。だから、品物までお金がまわ らないんですよ。 (今までの四十数軒で一番勢いのある若旦那!)(父)いや、親がなんですけど、組
合の中で有名なんですよ、第一人者でね、若手の。将来楽しみだって。うちのおじい さんが桑物師でしたからね。昔の人は小学校三年ぐらいで出て、すぐ丁稚奉公で修行
しましたからね。だから、腕が立つわけですよ。あとは、自分のね、腕次第ですけれ ども。

「いいから削れ」
(学校の木工科で指物の勉強はある?)(子)指物的なことやってましたけど 、高校レベルですし、基本的な鉋(かんな)を研いだりとか、鑿(のみ)の叩き方と
か、学術的には一応教えてくれますけども、逆にいうとうちの世界ですと、学術的な こととは関係なくて「いいから削れ」です。「これできれいになるから削れ」ですか
ら。で、やってますと、実際あまり関係ないんだなって思います。一応、必要なのか 不必要なのか、知っておくことはいいことですけどね。 (大黒柱は息子さんのデザイン?)入選作でこんなにでかい表彰状をどーんと貰ったの、全国伝統工芸展。(作ったきっかけは?)(子)もともとはですね、仲間と話し
てまして、テーマ性をもって作ろうって話から、大黒柱を作ってみようかなっていう 話になりまして。今や柱はありませんよね? 今の建築でツーバイフォーで我慢しち
ゃう家には。そういった日本人の思い入れがありまして、大黒柱に。じゃあ、その今 や無き大黒柱を家の中心にこう置いていただきたいなと思いましてね。いろいろ仕掛
け、からくりを設けて、大切なものを仕舞って置けるからくりにして、見た目は柱を半分にちぎった形ですけれども、見えたら面白いなあって思って作ったんですけども
ね。(どんなからくり?)引出しが、上四つに鍵がかかりまして、引出し箱として、 すべてそっくり抜けます。で、間仕切りの茶色の部分が抜けて、小箱になってました
り、あと一番下の両脇のちょっと細長い幅のところが抜けます。(一本作っただけ? )いえ、けっこう販売してますんで、頑張れば三本ぐらいいってます、ひと月で。(
かなり出た?)もう十本ぐらいは。(どんな人が買う?)やっぱり中高年の女性が一 番多いですね。割合的には七割ぐらい。あとは男性のかた。
作品ですよね。やっぱり
(アメリカの博物館は作品を買い上げるけど、日本では無い?)(子)日本は、有名 な方ならありますけどね、われわれ名も無い職人(笑)ですからなかなか無いですよ
。(有名な人は<作品>を作る?)はい、作品ですよね。やっぱり、過去にもいます し。木工作家として初めてパリの展覧会なんかに出したとか。そういうかたなんかも
、世界的に有名だと思いますし、そういうかたのは、お買い上げになっていると思い ます。ただ、われわれ単なる職人のはなかなか出ないですよね。でなければ、こうい
うコンテストにもう二、三十年出し続けないと、やはり名は残らないと思います、は い。だから、うちとしては美術品じゃない、使える道具ですからね、単なる。ただど
うしても、手作りだから、漆を塗りましたり、無垢の板を使ったりとか、見るかたに よれば、高級品で美術品でって言われますけども。あそこの家具はタモという木(も
く)で、やはりああいう木のいいところもね、木場に行ったり、材料屋さんに「いい のが入ったら下さい」なんか言っとくんですけれども、なかなか昔みたいには。(作
った人の名前が出た方がいいのでは?)はい、そうかもしれませんよね。(デザイン する家具は洋室向きの家具が多い?)いや、そんなことはないですよ。今、作ってい
るのは、楽屋鏡台っていって、歌舞伎役者が楽屋で使うものです。(それは注文?) いや、それは展示用に、はい。歌舞伎展がデパートでありまして、それにまつわる物
として。この前、俳優さんにもちょっとお会いさしていただきまして、楽屋見せてい ただいて、いろいろ聞いたんですけれど、デザイン的にはあまり決まってないって言
うんですよね。もう自分の好きなように作るっていうんで。
面白く無かった時期もありますよ 
(もう何年やってる?)(子)十六年ぐらいです。(面白かった?)面白く無かった 時期もありますよ。たとえば最初の頃は、屑箱とか、鏡台とか、小っちゃな屑箱です
とか、電話台みたいな小っちゃなものばっかしですから、それの繰り返しですから、 二、三年やって(笑)。(飽きちゃう?)でも、自分でもできない技術っていうのも
ありますから、その辺のじれったさと。だからって、いまでも気を抜いていると失敗 しちゃいますけどもね。(近代化できる?)まあ、すべてオートメーションとまでは
行きませんけども、ただ、二十、十五年前と比べますと、木工機械ってのが入ってま すから、荒取りとか荒削りとかする分にはかなり楽になってますけども。(完全にや
るわけではない?)そこまでは、無いです。やっぱり手作業は必要ですけども、ただ 昔に比べますと、すべて厚みを鉋(かんな)で決めていくかというと、そうでもなく
て、機械で厚み決めていきますから、かなり楽といえば楽ですね。(作る時間は短く なっている?)ええと、その辺はどうか、色々からくりとか仕掛けとか付けてますと
、デザイン的にその分時間かかりますね。
商売の情報の交換場所
(塗りもお宅で?)いえ、塗りはたいがい 出しますよ。小さな物は塗りますけど、まあ大概は出しますね。あと、塗師屋さんも 面白くて、けっこう神輿がひっくり返ったり、馬車がひっくり返ったりしてて、われ
われ商売の情報の交換場所みたいですから、そういう所に行くと、よそのかたの指物 類も集まってますしね。行くのも面白いし、逆に当然そういう所の方が(塗りが)上
手いですから、プロの方が。僕よりは上手いです。まあ自分で塗った方が上手い、自 分の方を気に入っているってかたもいらっしゃるかもしれませんけど。(よそからも
技術を学ぶ?)実質的にはそうですね。いろいろ勉強していくと、どんな商売でも、 借りて扱えるなってことがあるかもしれませんね、大きな意味で言うと。
(父)たいがい知っているお客さんは「これは倅さんが作ったんでしょう?」って言 うんですよ。感覚が若いですからね。こういうのを作ると売れるんですよ。古いのを
作っていると売れないんですよ。(こんなもの作りやがってと思うことはある?)こ んなもの作っても売れねえや、残っちゃってしょうがないと言うんだけど、逆なんで
すよ、売れちゃう。(パソコンを買った?)(子)秋葉原に行って。(お父さんは? )(父)いや、わたしは全然わかんない、機械使えないから。せがれが行って。いま
勉強してます。もうわれわれは駄目ですよ、機械ついて行けないから。まだ、倅ぐら いだったら大丈夫。いま小学校の子がやっていますね。六年生でも結構、うちの親戚
の所に行ったら置いてありましたよ。小学校六年生、それで遊びもできるから面白く てね。あれも良し悪しだね。夜中までやってるもん、お煎餅かじりながら。こっちは寝られないで困ってる。夜中二時ごろ行ってみると、勉強してるのかと思ったら、遊
びのゲームやってるの。良いよなあ。
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