●最初は友達の兄貴からちょっと教わったの
(何代目?)何代目ってこと無いですよ。(自分で始めた?)うん。(きっかけは?)僕はちょっと触れてたのね。触れてたってのは、小さい時に友達の兄貴がやってるのを見てたりとかさ。(近所にそういう人が居た?)たまたまね、東京でやってたりとか。で、見てて、やっぱりすごいもんだなあなんて思って見てたわけ。だから、自然とこういう道入るきっかけになったんだなって思いますよ。(絵を描くのが好きだった?)まあ、嫌いじゃ無かった。(お父さんの家業とは違う道へ進んだ?)そうだね。(でも修行はした?)うん。(いくつぐらいから始めた?)十八ぐらいからやり始めて、最初は友達の兄貴からちょっと教わったの、田舎で。長野。で、最初はまるっきり染めの世界ってのは知らなかったんだけど、一年、ニ年やっていくうちに分かってきてね。糊置きの作業、最初やってたんだけど、糊置きってのは人の描いた下絵の上に描く仕事だから、けっきょく自分で描きたくなるわけじゃない? 人の描いた上をなぞるわけだからねえ。だから、その人が東京で修行した人だったから、東京に世話してくれ、みたいな感じでお願いして、東京に出て来ました。二十歳ぐらいだったかなあ。日本橋で修行して、板橋で独立したんだよね。その頃はまだ高速道路を作っててね、で、日本橋から長野に近いわけ。で、こっちの方へ来ちゃったんだよね。
●自分でやりたい所まで手をかけちゃうんだよね
(これは風呂敷?)風呂敷でも無いんだけどね。(タペストリー?)うん、どうしようかなって考えてて。(完成はいつ頃?)いや、もう終わりじゃないですか。(どうなると気が済む?)弱ったなあ。今これは蝋けつなんですよね。あと色刺しをして、蒸気で蒸したり。(蒸す職人は別?)そうです。(つまり森澤さんは絵描き?)まあそれに近い。東京の場合は絵描き志望で東京に出て来て、絵で食べられなくて、こういう世界入れば食えるみたいな。それで絵描きさんでこの道入った人、多いんですね。で、どこが終わりだと皆さんは思ってます? (こういう創造的な仕事は際限無いのでは?)そうだね。だから今もう、だんだん手がかかるものばかりやりたくなっちゃって駄目だよね。金儲け下手ですよ。もう何十年もやって来て、中途半端にやったって面白く無いから。自分でやりたい所まで手をかけちゃうんだよね。(先日の個展で熱心なお客さんが居たけど?)好きな人は好きなんだけどね。俺、ああいう会場で売ったこと無いんだよね。皆さんに売ってもらわないとさ。綺麗ごとを言っちゃうと、どうも俺気に入らないんだよね。駄目なんだよ。昔、一生懸命勉強したいときに、どこかで個展やってて、素晴らしいの出てて勉強んなるかなって見に行くと、普通やってるよう販売会みたいな感じだから。そういうのばっかり見てきちゃったから、着物の世界でね。だから、そう思われたくないってのがあるんですよ。
●うちの場合、誂え(あつらえ)っていうか、お客さんの好みっての聞いて
(仕事は区切りまでやる?)時間置いてさぼってたら色が変わっちゃったりなんかあるからね。ここをやり始めたら、全部やっちゃわないとさ駄目なんだよね。(同じ色は一気にやる?)うん。決まりが無いから。やりながら、一つ入れたらこういう風にしてこうみたいなね、周り見ながらね。(白い所も全部色が入る?)そう。そんで今、この蝋の置いてある所が白くあがるんですよ。(いま塗ってある所が蝋?)そうそう。(この黄色は蝋の色?)蝋が焦げたやつ。(品物は一点物?)うちの場合、誂え(あつらえ)っていうか、お客さんの好みっての聞いて、やってるから、一点物になっちゃうよね。パンフレット販売とか量販店とかあるでしょ? そういう所ってのはパンフレットが出来上がったのと同時に品物が揃わなくちゃいけないから、それだけの量揃えるとしたら、かなり人入れてやんないと駄目ですね。(寺澤さんのお客さんは頼んでから半年待つこともある?)それは物によってだけどね。振袖なんかもう絶対採算合わないの分かっててやってるわけですよね。普通の振袖なんてのは、ほとんどプリントだから、メーカーさんには、なかなかそういう注文が来ないじゃないですか。そうすると、お客さんに頼まれた場合は、どうしてもメーカーの代りに我々が勉強するような感じになるから、すごくサービスしちゃうわけ。(寺澤さんはどこで儲ける?)だから宣伝に使っちゃう、逆にそれを。今までの変わったものって言うと、打ち掛け、結婚式の。そういう物、頼まれたりしてるんですよね。振袖もそうだけど、袖が長いですよねえ。そうすと普通の着物のだいたい三枚分ぐらいの量、付いてるわけですよ。(柄が?)柄がね。だから三倍ぐらい貰わなくちゃいけないわけよね。でも今プリントで安いのが出てるから、そんなこと言ってたら注文が来ないじゃない。だから宣伝のつもりでやって。そしたらけっこう見栄えがするから宣伝効果抜群じゃない。で、打ち掛けはもっと量が付いてる訳でしょ? いま打ち掛けも頼まれてるんだけどね。三年ぐらい先でいいですよとかね。(お嫁さんが注文?)お嫁さんのお祖母さんだよね。(まだ結婚が決まってない?)うん、まだ六つぐらいですよ、いやほんとに(笑)。(結婚が決まってからじゃ間に合わない?)無理ですよね。だから芸能人やなんかの、急にパッと行くとこあるじゃない。ああいうの一番困るよね。(そのお祖母さんいくらぐらいお金を払う?)何百万じゃないのかな。(でも、お祖母さんの娘は?)娘さんは先の事なので興味ないわけでしょう。でも、お祖母さんは、私の作風を認めてくれて、目が悪くならないうちに作ってもらうからと! 好きなわけだな、着物が。だから私が残しとかなくちゃいけないとか言って作る感じだけどね。(いま打ち掛けを借りて済ませるのが多い?)それと、打ち掛けは、逆に探して歩いても高いだけで、プリントばかりで、昔のようなきちっとした物が無いわけよね。(箪笥屋さんが言ってたけど機械で作る箪笥も結構高いとか・・・)ああ、そうなんだよ、安くないですよ。(売るためにいろいろ工夫をしてるから高い?)そうだよね。

●仕上げにどこまで手入れられるかって事だよね
打ち掛けなんてね、もう我々でも一生に何遍でしょ? そんな風になってくると金(かね)じゃなくなっちゃうから。(凝っちゃって?)凝っちゃって、俺のことだから、メチャクチャね。今のはどっちかって言うとパッと見のいい商い、我々もメーカーさんと何十年もやって来たけど表面で売れればいいわけ。最後の最後まで手入れなくても、パッと見が良くて飛びつく仕事すればいい。だからそれを昔に戻って、最後まできちっとした手入れると、飽きもこないし、引きつけられる物ができるんですよ。仕上げにどこまで手入れられるかって事だよね。昔はよく着物が着られて、洗うんだけど、洗ったあと色が落ちちゃった部分とかが我々の所に手直しに来て、色付けもちゃんとして納品するから、お客さんは落ちたと思って無いわけですよ。あとから付ける金だとか、顔料だとか、そういう物は、洗えばどうしても落ちるんだよね。でも昔の人は描いた人に持って来て、きちっと直して納めたら新しくなっちゃうわけね。ところが今そういう仕事が無いんですよね。洗ったら困る、みたいな感覚があるしね、今は。もう表面の仕事しかやってないから。うちに今来てる生徒なんかでも、仕上げをちゃんとすると、すごく絵が生きてくるね。そこにちょっとあるけどね。みんな経験が無いから、すごいよ、すごいよって言ってもわかんないんだけどね。この立体的な感じがいいでしょう? 今は宣伝して、どうしても納期が早く、早くでね。早くお金にしようって感覚が多いから、こういう仕事の職人さんというか、工程を抜いちゃってんのよね。だから今、着物屋さんで売ってるのは金(きん)を使ってあるとか、金だと豪華でごまかし易いわけよ。(金(かね)も取れる?)そう。こういう仕事は絵に引きつけられて絵を生かすから、絵が生きてくるわけですよね。そういう仕事今やってるのは少ないんですよね。(これ生徒の作品?)そう。だから生徒でもね、うちあたり来るともう四ヶ月ぐらいでこんなのみんな作ってる。こんなの見たらさ、誰も信じないっすよ。この辺だと着物一枚作ってるのとおんなじぐらいの量やってるんですけどね。ちょっとした着物をね。これだって、この二カ所やってるってことは、帯の前後ろ出来ちゃうじゃないですか? 立派ですよ。(その気になれば大きな物も作れるようになる?)自信が無いのね。経験って言うかな、精神的なものと内容が伴わない。どんないい物作っても結局、経験が無いからこれがいいとか悪いとかって判断ができないでしょ? 良くても自信が無いから。で、みんな悩んで作ってんですよ。グリーンの葉っぱのぼかしをしてるんだけど、自分の頭ん中で思ってるようにはできないわけだよ。ほかの人もおんなじですよね? ところがほかの人の仕事はみんな良く見えるわけですよね。(寺澤さんぐらいになれば経験で分かる?)うん。(生徒さん以外の弟子は居る?)今もう外弟子になっちゃってるから。(外弟子とは?)外弟子って、うちから出て、仕事回したり。
●いや、スケッチするのよ、かなり
(絵柄は思いつき?)いや、スケッチするのよ、かなり。(この柄はどこで?)これは京都の方ですよ。嵯峨野の方。仲間同士で行くのね。(帰りは祇園?)いや、遊んでいないですよ、我々は。(柄で年齢の向き不向きがある?)これモノトーンで、あんまり売れ残ってないんだけどね。締まるって言うのかな、体が。(でも派手!)意外とスカッとしてるの。昔は師匠の模様を写して、それをだんだん崩したでしょ? それをまた先生から習う人は、自分で元のスケッチしないから。だから着物描いてる人が、じゃあ風景みんな描けるかったら、描けないんですよ。
●東京はお店に出てない物をお客さんは欲しがるわけですよ
(和服の妙味は淡い色や微妙な色?)そうね。(日本は色数が多い?)東京の場合、呉服屋さんとかデパートに出てるのは京都とか産地の物で色数多いでしょ? すると、お客さんの中にはもうちょっとこういう柄で、こういう色でとかね。地色でもそうでしょうね。だから粋(いき)とか侘び(わび)とかっていうのは産地じゃ無理なのよね。東京の場合、お客さんがいろいろ着て、こういう柄で、こういう地色で、という感じだから、そういうの狙いで作るから、粋だとか、侘だとかになるんじゃないですか? (関西は出来合い?)分業だからそういう物は難しいわけですよね。我々は相手の要望を聞いたときにイメージを湧かして、いろんな工程をこなして行くから、だいたい思い通りに近いのができるわけでしょ? 京都の場合は問屋さんが何十軒もあって、それぞれ問屋さんはこういう感じってのを持ってるわけですよ、伝統って感じで。だけど東京はお店に出てない物をお客さんは欲しがるわけですよ。ただ、なかなか着なくなってるから、いま我々も道楽仕事になってきてる。だから注文来ても中途半端な物やりたく無くなっちゃうわけよね。だから今頼むとみんな得しちゃうよね。
●いま調査してんだよ俺、バリのね
これはバリ。(エキゾチック!)いま調査してんだよ俺、バリのね。(バリの音楽も?)いや、染めがあるんですよ。(バティック?)うん、バティックもいろんなやり方があるんだけど、もう十年ぐらいやってるんですよ。まだ未完成なんだけど、こういう風に地色染めるのに、これだけの色数、染めてるんですよ。だから糊の撒き方は平均じゃないと絶対合わないわけ。(なぜバリのバテックを?)中国は刺繍でしょ? 模様の表現っていうのは。で、アメリカのインディアンとか、日本のアイヌとかの文化では織りなわけよ。で、イタリアとかフランスの方はプリントで色をつける。で、バリは、生地はシルクもあるけどだいたいコットンで、白生地から模様を描き抜いてくっていうのが技法。日本も白生地、白から描いてくでしょ? でそういうとこ共通性があったもんで、模様とかは自分で描いてね。(この細かい模様に全部筆先で糊を置く?)そう。(糊は終わった段階?)うん。(どのくらい時間かかってる?)何ヶ月かかりました。(根気がいる仕事?)そうそう、これはね。自分が描けない業者は現地で頼んじゃうでしょ? そうすると現地の柄になって、現地の色になっちゃうわけでしょ? だから僕は逆に作り手だから、向こうの素晴らしい、日本とおんなじように絶えて行っちゃう部分を拾い込んで、柄の部分だけやらして、あと色付けとか自分でやるわけ。ただ日本でも糊置きってのは分業で頼んだりもするわけね。そういう物も挑戦したりしてんだよね、今。でも言葉の問題とかでもう十一年目、やり始めて。今年やっとバテックの作品が少し貯まってきたの。
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