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●もう五十年になっちゃいますかね
(近所のガラス工場がなくなったのは何年ごろ?)何年ごろでしょうねえ。もう十年経ってますねえ。もともとあたしがここへ来て二十年ぐらいなんですけど。(仕事を始めてから何年ぐらい?)もう古い方でしょ。(歳は?)いくつでしょうか、はっはっは。七十二。でも、うちに居るとボケちゃうけどね、デパートとか行って、みなさんと話をしたりしてると、売上どうでもいいから、もう、ははは。(技術を身に付けて何年?)あたしがこの業界へ見習いとして入ったのが昭和二十四年からですから、もう五十年になっちゃいますかね。(ということは二十歳で入った?)二十、遅かったからね、もう二十。昔はさ、満でなく、数えでね、結局二十四ですよ。だからこういう業界入るには遅かったですよね。まあ十五、六からやらないとね。
●使ってくれて、また注文もらうとありがたいですね
記念品だとかね、いろんなとこ出てる。普通自分で使うっていうと、なかなか高価なもんだからね。(あれは冷酒セット?)そうですね。(友達が切子のぐい呑みをくれて愛用してる)あーそうですか。(あれで飲むと妙に気分がいい)まあ、器がもの言いますから。だから使ってくれて、また注文もらうとありがたいですね。(何に使ってもいい?)これはっていう用途は決まってませんからね、自分で使うには。(やっぱり贈答品が多い?)多いですね。ほとんどそうです。われわれのはデパートに置けないからね。デパートのはメーカーのもんで、頂いても値段がすぐ分かっちゃう。(なるほど!)その点がね、魅力なんですよ。(手作りということもある?)そうですね。(メーカーは?)機械です。でも技術はすごいですね。(でも機械と手作りと違うところがある?)ありますよね。でも結局、機械でやると決まったものしか出来ないから。われわれが最後の仕上げで五百番、六百番のダイヤを使うんですよね。機械でやると、その工具の消耗が激しくて、安くやるには四百万の粗いやつで一回でやっちゃうんですよ。あたしらは、深くやるときは荒いのでやって、今度は細かいのでやって。それがもうガーッと荒いのでやっちゃうと、目が深く入りますからね。クリスタルですから、せっかくの光の出るところが・・・その点がね。
●三週間ぐらい余裕をもって注文を下さい
(ガラスは何種類?)クリスタルとセミクリと、(セミクリスタル?)ええ。そのほかで、大体あたしらが使うのは三種類ぐらいですかね。で、クリスタルでも七、十、十三、二十、二十五と、五ランクくらいあります。(それは何の数字?)含有量。(クリスタルとソーダガラスはどのくらい値段が違う?)クリスタルが材料でも三倍くらい高い。だから、なかなか大量に買うとなると・・・(大変?)だから、だいたい三週間ぐらい余裕をもって注文を下さいって言ってね。(クリスタルは手間もかかる?)いえ、クリスタルの方がかえって安い。磨く工程がないんですよ。一個やるのに、酸で洗う、酸で溶かしちゃうわけですよね。五百円ぐらいかかるんですけど、手磨きでやると千五百円。ソーダグラスは、酸で漬けらんないんですよ。(クリスタルは大丈夫?)ええ。(田辺さんはクリスタル一筋?)いやいや。内祝いとかが、三千円のくれとか、二千円のくれとか・・・(値段によって材料を選ぶ?)そういうことですよね。で、クリスタルになると大体一万二、三千円が最低ですから。と、なかなかね、いいけどちょっと高いなあって。(いいものを自分で使わないで人にあげるのは変?)皆さんそう言うんですよ。
●ものすごいキラッキラッと光るでしょ?
光を当てるとクリスタルだと、ものすごいキラッキラッと光るでしょ? (ほんと、手に持って回してるだけで光ってる!)でもねえ、そりゃあ、使うにゃあちょっとね。(重たい?)重たいしね。中が汚れちゃったら、こんど洗うに困る。(ブラシは?)入らない。(飾るためだけに作ってる?)いやいや。(使って欲しい?)いや、そうそうそう。飾っても、インテリアにもいいですよ、こりゃあ。(明かりがうまく当たるような仕掛けがあるといい?)明るくなるでしょ?
こういうもん眺めてると。使わなくても。
●あたしおばさんの紹介で入った
(二十四で始めたきっかけは?)それがね、あたしおばさんの紹介で入ったもんでね。うちの親方は子供いなかったんですよ。おばさんの子供を養子としてもらったもんですから。それがまだ四年生ぐらいかな。そいで入って、仕事覚えるまで居てくれりゃあって言うから、独立したくてしょうがないんだけど、待って、旧制の中学終わったのかな。(随分待たされた?)そういうことです。(親方の養子さんは仕事している?)いやあ、もう亡くなっちゃった。で、商売辞めちまってね。その工場の跡が、あそこにあるんだけど、喫茶店。嫁さんがね。やっぱり女は強いよ。そいで、それが上手くいった、お客さんがね。

●金ができるとすぐ呑みに行っちゃう
昔の職人はね、ほんとに腕がいいから金も入るんだよね。(でも前金もらって使っちゃったとか?)そうなんですよ。ある時ね、あたしが給料面からみんなやっていたもんですから、お隣りに勘定もらいにいったら「きのう持ってったよ」とかね。まあ昔の人はみんな誰、彼よらずそういう、ね?
もうちょいとあれになると、夕方になると、おーいちょっと寄ろうかって、花札でもやったりね。そんなんですよ。金ができるとすぐ呑みに行っちゃう。(良き時代?)そうですね。当時ね、私らが若くて、今みたいに人手不足でなく、みんな小僧さんとか雇う、五人とか六人とかって。だから、親父儲かりましたよ。自分で計算できた、あたしらもね。それなりの仕事やると、いちんち千円でしょ?
そうすると二十五日、ほとんど二日ぐらいしか休み無いからね。ついたち(一日)、じゅうごんち(十五日)ぐらいでしょ、あたしらのときは。(それが昭和?)二十四年ごろ。だから、月に、あたしなんか三千円ぐらい呉れたから。食べさしてもらってさ。んで、それから四、五年経ってから五千円ぐらい。(まあまあ?)いいほうですよね。
●氷にくっついたビールがね、一番冷たくなってんの
(戦争中は亀戸に居た?)あたしは大島(おおじま)。そこの。都電が通ってたよ。水の都でね。雨が降るともう、台風ていうと停電になったりするから喜んで・・・遊びに。(遊びに行く?)そうそうそう。佐藤って肉屋があって、あれでね、胃こわしちゃったことあんですよ。あすこにね、あたし毎晩行くでしょ?
職人さんに仕事回したり、手配して遅くなっちゃうんすよね。そうすると今の冷蔵庫と違って、昔は氷でしょ? だから氷にくっついたビールがね、一番冷たくなってんの。だから胃こわしちゃって。(宵越しの金持たない時代?)そうですね。(素晴らしい!)で、いまだに続いてんですよ。ついたち(一日)って言うと、のんべえ会なんですよ。あたしも協会の役員やったりいろいろしてるでしょ?
そんで十二人、メンバーお揃いで。協会長はじめ、いろんなお歴々がね。そいで、各家庭でやったの。だから、うちの者がこぼすこと、こぼすこと。部屋が二つ続かないと、十二人入らないんですよ。で、ろくな料理も出来なんだけども、料理屋並の器とか、そのために用意して。
●若い者を養成するとなると、自分の売り上げが半分くらいになっちゃう
(これからの見通しは?)今ちょっと厳しいですね。(厳しい?)うん。というのは、中国とか、日本のものも、けっこう安く入るでしょ? 片方だけだと、遠くから見たんじゃ違いが分からないですからね。(見る人が見れば分かる?)分かります。(職人さんはもう必要ない?)必要は必要なんですけどね、なかなかね、修業って、何でもすぐ簡単にできると思うけども、さあこなすとなるとね、年月がかかるんですよ。そうすっとね、これはやりゃいいなと思って、三年ぐらい経って、そうすっと商売替えしちゃうんですから。やっぱり、自分の仕事より人の仕事が良く見えるんですね。んで、口車に乗っけられて、こうやればいくらぐらいとれるよとか、そういことささやかれると、その方に・・・。そんな簡単なもんじゃないですけどね。だから今、若い者を養成するとなると、自分の売り上げが半分くらいになっちゃうわけですよね。教えたり、仕事したりね。三年間かよってきて、アパート生活をさして、三年で辞められるともうまるっきり自分の持ち出しだけだからね。だから、あたしの入った時は、みんな先輩を含めて三人、五人、十人て居たからね。それを見ながらこう、教わったりいろいろしたけどね。今は一対一で教えなければ、だから、それなら辞めたと。で今、条件的にね、週四十時間とかね、そんなこと言って修業できる訳ないですよ。日曜祭日も有給だとか、いろんな保険の対策したり。
●あたしらが最高の方で、六十代
(切り子の職人はみんな年取った?)そうですね。けっこうもう、あたしらが最高の方で、六十代。ま、そのあとの後継者、二世のかたが居る。跡を継ぎますからね。だから、幸いに八十社ぐらいまだ残ってんですよ、これで。(日本で?)いや、東京で。今このカットやってんの大阪も無くなっちゃって、もう東京だけ。(もっと少ないかと思ってた!)いやいや多いんです。ですからね、東京都の知事の感謝状、表彰状の記念品なんかも、東京都の伝統工芸、五十何種類あるわけですが、全員から変わったものをあげようって言うんだけど、ほかの業界は少ないからいいけど、一人で受けるには多すぎるし、受けらんないんですよね。(つまり業界で受ける?)ええ、業界でやる。(決められたデザインで同じ物を作る?)そうそうそう。でも、やっぱり癖って言うか、あるんですよ。ほんとは手作りってんだから、それでいいんですけどね。あんまり違いすぎると、ね?
組合の中でも得意、不得意があるから、この人にはこういうふうにやってもらおうとか。(田辺さんはどういうのが得意?)いやあ、あたしは得意はないですよ。何でも屋なんで。ただ有利なのはね、新しい商品、こういうのをやってみようかなって思ったときはね、各デパートに行くからね。お客さんの反応を見るわけですよ。あ、これならいいやと。お客さんが大勢寄ってくれると、材料を買って帰って、やっておくとそれは完売しちゃう。一個一個やると今度は、工具を換えたり、手間が高くなっちゃう。でも、沢山を業界で受けるようなときは別として、普通はみんな一人一人、違うものを作ってんでしょ?
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