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●歴史
おじいさんの代からですから、もう八十五、六年。ずっと仏壇だけです。東 京の仏壇の形を作ったのがうちのおじいさん。(東京風の仏壇?)ええ、京都は京
都、金沢は金沢、その土地の仏壇がある。東京の場合は西の方と違って、金箔を押し たきらびやかなものじゃなくて、木地(きじ)のものを好むので、一番最初は指物屋
さんが作っていたと思うんですが、うちのおじいさんの出は埼玉の春日部なんですけ ども、そこのお琴屋さんで木工に入って、そのあと建具屋さんに移ったんです。建具
っていうのは基本的には仏壇の造りと似ているんですよ。建具屋さんっていうのは唐 紙や障子ばっかりじゃなくて、いろんな家の内装の造作をやるんですね。そこで、自
分で考えたお仏壇を頼まれて作り始め、だんだんに黒檀や紫檀を使いはじめたのが最 初で、それから同業の人が増えたんです。
●産地
東京で売られてる仏壇の九割は地方の、機械製品っていうか、工場のベルト コンベアーでできるような仕事に変ってきています。安い特価品は韓国、台湾から完
成品できてますね。東京の場合は工場もないし、近郊をふくめて二十五、六人いる同 業者も家族だけでやっている人が多いですから手作りです。でも、東京で仏壇作って
るのを知らない方が多いですね。逆にいうと、戦前は手作りがあたりまえで、東京し かなかったので良かったんですけども、昭和三十八、九年ぐらいから東京の問屋さん
が静岡の木工家具屋さんに持ち込んで作らせはじめたのが機械作りの最初なんです。 ただ、機械製品の代用品と手作りの違いはあっても、日本に仏教徒がいなくならない
かぎりは仏壇は無くならないでしょうね。
●宗旨での違い
東京の人は全国の集まりですから、仏壇はどの宗旨でも使えるって いうのが出発の時点からです。地方、地方は宗旨が偏っているので、一つの宗旨の仏
壇ですんじゃうんですけど、関東の場合、真言宗と日蓮宗が多くて、どの宗旨でも使 えるっていうのが東京の唐木(紫檀や黒檀などの輸入材)仏壇の特長なんですよね。
ですからキリスト教のかたでも使われます。

●素材
問屋さんは東京仏壇っていいますけど、唐木(紫檀や黒檀などの輸入材)を 使うので唐木仏壇。(唐木にも種類が?)使うのは固い材料、長く使うものですか
ら。輸入材だと黒檀、紫檀。国産だと桑、タモ、欅(けやき)。買うときは、丸太を 厚さ何センチって板にしてもらうんです。そうじゃないと目(木目)が違ってきちゃ
いますから。扉の長さがとれるものを買いますが、今じゃ桑は180センチ以上の材料 はとれないんです。それだけ長くて、巾の広い木が無くなっちゃったんですね。どの
材料にかぎらず年々木が細くなってきています。黒檀、紫檀は昔は丸太で入ったんで すが、東南アジアの産業を起こすってことで丸太じゃ出さなくなった。輪切りにし
て、板(ばん)にして出す。そうすると向こうの人間は枚数でいっちゃうのでゴチャ ゴチャの材料で入っちゃうんです。小さいものならいいんですけど、大きいものなら
材料で使えなくなっちゃう。だいぶ、ここんとこ良くなってきましたけど、最初のこ ろはバラバラにされちゃってて使えないって状態が何年も続いたんです。
●指物屋との違い
指物屋さんと仏壇屋がいちばん違うのは造りです。指物屋さんは 見えないところでホゾを入れるんです。仏壇ももちろん組むんですけど、そこに当て 木をしていくんですよね。そういうことで割れたりしないように造っていくんです。
急所、急所は釘を使います。屋根なんかは釘をぜんぜん使ってないですけども、屋根 を合わせるところとか、見えないところでは使ってますね。あと、脇とかは三層構造
にしちゃうんです。たとえば桑材があって、芯材にタモを入れて、また桑を入れる。 そうすると両方から引っ張りあうんで長く使っても割れない。指物屋さんが仏壇に近
いような形で作ったものの直しがくると、みんな脇が割れちゃっているんです。一枚 板を使っちゃいますから、指物屋さんは。そうすると、茶箪笥やなんかと違って逃げ
(場所の移動)がきかないんで、仏壇の場合はガチっと固めちゃいますから、あとで 脇が割れちゃうんですね。だから木を継いで、色を揃えてあげてという直しもするん
です。ムク板(一枚板)の使い方がぜんぜん違うんです。使えるところはムク板を使 うんですけど、あとで割れたり、反ったりするようなところはサンドイッチにしちゃ
う、それが東京仏壇の特長です。ムクだから丈夫っていうものでもないんですよ。だ から仏壇では三層のものをムクっていうんです。(狂わないように乾燥させる?)え
え、でもやっぱり生きてますから狂いはしょうがないんですよね、いくら乾燥して も。一週間ぐらい木地のまま仕事をやってて、催事なんか行っちゃったりすると反っ
ちゃう場合もあるんです。そうすると焼きを入れる。つまりガスバーナーで焙って元 に戻すんですよね。(どれくらい乾燥させる?)木材屋さんが板(ばん)で五年ぐら
い乾燥させ、うちあたりでも最低三年ぐらいは寝かして材料に使うんです。桑の場合 なんか倒してから十年ぐらい経っている木なんです。
●寸法と色
大きさは号で呼び、一般的な仏壇は18号です。20号って、昔でいうと二 尺っていうことなんです。いっとき(一時期)広告で尺貫法を使えなくなったときが
あったんで号数に変えちゃったんですね。ですから20号っていうと60センチのこと で、東京の場合、高さです。関西の塗り仏壇の場合は巾なんです。それと、今は明る
い色のものを好まれるかたが多いですね。昔は仏壇っていうと黒檀のものが主だった んですけども、今はお部屋自体が明るくなってきてるんで、黒いときつくなって、い
かにも仏壇ってなってしまい、女性のかたは明るいものを好むから、明るい感じのも のが増えてますね。今はほとんど黒檀が売れず、紫檀とか本桑とか、明るい材料のも
のになってきてしまいましたね。
●構造と形
一番下の段は重いもの、たとえばにリンゴだとかあんこものだとか載せ た高坏(たかつき)や、お茶とごはんを載せる台を置くところです。真ん中は浄火っ
ていう金色のアルミのものを置いて、一番上はご宗旨のご本尊様とお位牌を置く場合 が多いんですよ。(お線香は?)下の方から前焚きっていう台が引き出せて、そこに
お線香とお鈴(りん)と生花(なまばな)などを置きます。大きいものだと経机(き ょうづくえ)を使います。(形は?)お仏壇はお寺の内陣を模しています。ですから
天井があるんです。(仕事はぜんぶ自分で?)抜いたりするのはミシン屋さんに糸ノ コミシンで抜いてもらって、彫るのは彫刻屋さん。あと塗ってもらうの以外はぜんぶ
自分です。デザインは自分で考えて、たんびたんび彫り屋さんを変えるんです。そう すると大きさはいっしょですが、中は感じが変ってきます。人物の上手なかた、唐草
の上手なかた、分野で得手、不得手があります。逆に、あれと同んなじ彫りをしてく れっていうのが難しい。たとえば一、二年ならいいんですけど、二十年、三十年たっ
ちゃうと、へたするとその彫り屋さんがいない場合がある。木も違いますから全体の 感じも違っちゃうんですね。
●デザイン
(同じ大きさでも中は違う?)ぜんぶ違います。機械のものみたいに何 年もおんなじものを作っているってことじゃないもんですから、お客さんに言われた
から、ここを使いやすいように変えようとかが自分で工夫できるわけです。機械のも のはカタログに載っちゃうと変えられないことが多いんですが、東京仏壇の場合は手
ですから、今度は彫りをこう変えてみようとかができますよね。そうすると、そのお 家(うち)のお仏壇になるわけです。オーダー品に近い状態です。お位牌が大きいか
ら段を下げてくれとか、床の間が浅いから奥行きを小さくしてくれというような注文 にも応えます。材料を見て大きさと、木の目に合いそうなデザインを考えます。派手
な目は彫りを入れないほうが木の目が生きるとか、地味めな時はちょっと派手めにし て華やかさを出すとかします。大雑把ですけど、デザインは自分が考え、あとは彫り
屋さんがそれを補足して図を描いてくれます。こんなような感じで彫ってくれって言 えば、彫り屋さんが最終的に自分たちが彫りやすいようにアレンジして下絵を紙に描
いて木に貼るんです。紙ならまた濡らして剥がせますからね。
●塗り
上手な塗師(ぬし)屋さんじゃないと、いくら木地が良くても、こっちが一 生懸命やっても、塗りで失敗されちゃうと価値が無くなっちゃいます。塗り直しって
いうのも、ある程度やっちゃうと落ちにくくなっちゃってできないんです。木地によ って塗り方もちがい、たとえば桑は、安っぽく光らないようにすこし消してもらって
います。紫檀はツルっとした感じがいいんですけどね。
●経机(きょうづくえ)
父が考えた形なんですけれど、ふつう経机っていうと、経 文(きょうもん)を書いたりするんで筆返し(ふでがえし)っていう桟が両脇につく んです。でも実際は道具を置くのに邪魔なんですよね。しかも仏壇の場合は必要がな
いんで、父が考えて道具を置きやすい形にしたんです。引出しには蝋燭(ろうそく) とか、お線香とか、お経本(きょうぼん)とか、毎朝使うものを入れておきます。
●大きい仏壇
大きいものには紗(しゃ)を張った障子がつきます。重さは全体だと 50キロぐらいになります。でも、台のところから分かれるので運びやすいんです。一
本作りだとすごく重くて三人ぐらい居ないと持てないですね。上下別にすると二人で 運べますから。
●弟子
父の代の弟子はよそへ行っちゃったあと、僕と父とでやっていたもんですか ら、今は居ません。同業者はみんな四十代以上で、息子さんたちが何人かいるだけで
二十代、三十代って誰もいない。(じゃあ弟子をとる?)無理でしょうね。修業の年 数がかかるし、木工関係でも特殊な仕事だから、今の若い人だとせいぜい息子さんが
やるぐらいでしょう。うちはまだ小学校三年ですから、まだちょっとかかります。
●修業
ある程度基本的なものをこなせるようになるのが大体十年以上はかかりま す。(デザインは?)それと平行してね、やってますからね。あとは技術よりもデザ
インが大事になってきちゃうんですね。ある程度技術はいっしょですから。それ以上 は変(かわ)んないです。(大瀧さんはいくつから?)ボクは二十二(歳)、学校で
てから。(息子さんは?)うちの子はまだ小さいからそこまで考えてないと思うんで すけどね。
●客の好み
お客さんに好まれるデザインを出すっていうのが一番大変なところなん です。自分のうちはこういう造りなんだからって固執している職人は案外好まれませ
ん。たとえば一番上の段もぜんぶ取り外しが出来る、お掃除しやすくするとか、そう いう細かい点を僕たちも展示会に出たりしてお話きいて、それで生かしてくるわけで
すよね。小さいものはスッキリこういうふうに造ってほしいわねという話を聞くと、 今度の仕事のときにはデザインを変えてそういうふうにしてみようとか、いっぱい彫
り入れなくても別に安っぽく見ないんだなって考えればスッキリ造ることもできます しね。父のお弟子さんなんかと話すときに、今お客さんはこういうものを好んでるよ
とか、そういうふうに自分で考えを直してる弟子はやっぱり売れてますね。うちはそ ういうの関係ないから、うちの造りだからって言ってる人は売れないです。ただ技術
がいいからっていうんでは売れないんですね。ええ。
●客の年齢
お父さんやお子さん亡くされた二十歳(はたち)代のかたもいらっしゃ いますから、年齢的なものはないですね。逆に言うと、仏教っていうのは昔で言え
ば、いちばん新しいことだったわけですよね。いまお寺さんはどこでも葬式仏教的に なっちゃってんですが、仏教が入って来たころは医療だとか、いちばん新しい技術っ
ていうか、それが基本になって入って来ているわけですよ。だから、こういう仏具に しても最先端だったわけですね。二年ぐらい前に新聞が統計とったらば、関西のほう
でお仏壇ある家(うち)が三分の二だそうです。関東だとお仏壇のある家(うち)が 逆に三分の一。ですから、まだまだ需要はあるんです。関東の場合、東北から来てる
かたが多いんで、長男が跡をとって仏壇をお守りして、あとの人たちは誰かしら亡く なんないと買わないっていう感覚が多いんですよ。だけども逆に、兄弟三人いると三
本買われるんです。西の方へ行くとお若いかたでも、亡くなろうと、亡くなっていま いと先祖様を祀(まつ)るもんだから有ってあたりまえっていう感覚が強いんです。
●葬式屋との違い
この間もデパート出たときに言われたんですけど、もう八十ぐら いのおばあちゃんですね、うちは先祖いないから仏壇がないっていうんですね。先祖 じゃなくて、亡くなったかたがいないっていうのはわかるんですけど、先祖がいない
ってことはありえないんですね。葬式とゴッチャになっている人が多い。だから、う ちあたりも葬儀屋さんと勘違いされるんですね。うちは葬儀にタッチすることはひと
つもないんですよね。その後(あと)だったり、先のことですから。
●家族のもの
デパートの展示会に出てても、桐の箪笥とかの高額品は女のかたひと りでも決められますけど、仏壇ていうと決んないんですよね。やっぱり家族全員が揃
って意見が一致しないとっていう話になる。だから、新しく出たデパートだと箪笥屋 さんなんかと同じに考えられちゃって、「なんで決らないんですかね」って言うんだ
けども、そうじゃない。デパートで一年出て売れないと「もう結構です」って言われ ちゃうと、むずかしいんです。お客さんに「あそこ行くと、わりかた、いい仏壇が、
安く、毎年出てるよ」っていうのが、何年かやってわかんないと商売にならないんで すね。このあいだ配達に行ったお客さんは、六年ぐらい前からデパートでうちの名刺
を持っていってて、家(うち)建て直したから欲しいっていう。十七、八年前の伝統 工芸展でうちの名刺とパンフレット持っていって電話がかかってきたりするんです。
年数経っても、欲しいと思う人はかならず来ていただけますから、ちゃんと説明して おかないとお客さんが続かないですね。仏壇はいつか買うものなんです。
●納期
木地の段階から塗り上がって完成まででふつう三月(みつき)ぐらい。大き いものだと半年ぐらい。(基本的に注文生産?)ある程度在庫もないと商売にならな
いもんですから、年間通して出る大きさのものを四仕事ぐらい、多いときで六仕事ぐ らいこなしてる場合が多いんです。(相当に在庫をもつ?)ええ、ただ作って納めち
ゃってる時代のほうがかえって楽な面はありましたね。これ作ってくれって問屋さん に頼まれて、そのまま入れちゃって、月末になってお金をもらってくればいいわけで
す。今はもう、そういう注文が来なくなっちゃった。だから、自分である程度在庫を 置いて、小売りもやりながら生き残っていく。オイルショックのころから流れが変っ
たんです。昔はトラック一杯積んでゆけばよかったんですけども、今はもうそういう 時代じゃないから、なかなかむずかしいです。
●仏教
中学ぐらいから父といっしょに旅行に行って、お寺さんで仏像とかいろんな ものを見て、壇はあれが格好いいな、とり入れてみようとか考えてました。それが
今、すごく参考になっていますよね。ただ物(もの)を作っているだけじゃなくて、 そういう仏教的な勉強もさせていただいてますけども、デパートなんか出ていると仏
教的な質問を受けるんですよ。僕たちも勉強してないと対応できないんです。お寺さ んにこう言われてるんだけどどうしましょう、じゃあこういう風に仏壇飾ったらいい
でしょうとか。お寺さんに聞けないことをみんな聞いてくるわけですね。
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