●シェアとしては相当、ほとんどうちが
(おろし金を作っている人は多い?)もう居ないんですよ、こういうの。いろんなの やってたんですけどね、ちょっと前まではね。これ、今専門ですけどね。(代々おろ
し金を作っている?)代々って言っても、あたしまだ二代目ですけど。要するに銅壷 屋(どうこや)っていう商売なんですよ。その名刺の裏側に書いてあります。(星野
さんと同じ?)星野さんいっしょなんですよね。で、星野さんはああいう装飾品のや つで、うちは鍋とかだったですよ。それでうちも浅草で昔やってたんですけどね、戦
後からちょっと移して。(おろし金の素材は銅?)そうです。銅に錫メッキしてある んです。(今はおろし金の専門?)そうですね。(それと鍋?)これはね、まあちょ
っと注文があったような時に、デパートで催事なんかあるでしょ? あん時持って行 くだけで、もう出してるのはこれだけなんです。(大矢さんのおろし金は日本制覇し
ている?)うちが圧倒的に多いですよ。(おろし金のチャンピオン!)ええ、ええ。 シェアとしては相当、ほとんどうちが。(店のマークが付いてる?)うちはOEMなん
ですよ。もう相手方の名前で出してる。注文のあるときはうちの刻印入れますけど、 あとは全部お店の名前で出す。ですから、デパートとか、築地だとか合羽橋、あれ全
部うちの製品なんです。お店の名前は別々にいれてありますけど。(OEMの相手先に よってデザインを変えることは?)無いです。(形は?)全部同じなんですね。ただ
注文によっては長方形の作ってくれとか、丸いの作ってくれとか、そりゃ来ますよ。 (それは個人の注文?)いや、お店から。例えば、料理の有名な学校なんかは長方形
に作ってくれって言って来ますよ。(亀の形のは可愛い!)うん、それはまだ全然市 販してなくて。
●これぐらい大きい鉄の塊で叩くんですよ
(戦前は浅草でやって、戦後は練馬?)いや、あれは住まいだけなの。ちょっと前ま で池袋でやってたんですけど、ああいうとこじゃ出来ないでしょ? で、ここ移って
来た。これはみんなガンガン叩いて、板硬くしてやってるんですよ。これぐらい大き い鉄の塊で叩くんですよ。このミニおろしと亀型おろしは銅版をプレスで抜いてま
す。(相当ガンガン音がする?)だから東京じゃできないですよね。で、これは地方 でやってますけど。それを送って来るわけ。(おろし金の職人は目を立てるだけ?)
そうですね。いや、こういう生地を作るのもみんなうちにいた人ですよ。田舎の方へ 帰ってもらって、広々とした所でやってるわけですよ。(目を立てるのはヤスリ屋さ
んと同じ技術?)うん、鏨(たがね)でトントン。今やってご覧にいれますけど。

●この目が全部不規則に並んでるでしょ?
(これは何用?)わさび用です。(時代とともに金属のおろし金も減ってる?)売れ 行きですか? ここ一、ニ年はほんと悪いですね。(なんで?)会社だって交際費抑
えているから。(交際費で買うわけじゃないのに?)これはみんな割烹料理のとこ行 くんですよ。要するにねえ、自分のお金で食べたり飲んだりする場所じゃないところ
が使ってるんですよ。だから一番影響を受けるんですよ。(ある意味では高級品?) そうなんです、ええ。(これ今いくらぐらい?)これ、今七千円。ただ、うちはもう
そういうとこ頼っても駄目だからねえ。(やっぱり料理人はこれじゃないと駄目?) これしか使わないです、ええ。これは大根です。裏がわさびになってます。本わさ使
う時は必ずこれ使うんですよ。プラスチック、ああいうの使わないんですよ。(金属 と野菜との組合わせがいい?)結局この銅っていうのがね、手仕事するにいい金属な
んですよね。硬さとか、伸びとか。これ手で作りますからね、この目が全部不規則に 並んでるでしょ? で、よく切れるんですよ。わさびはこういう小さい目でおろさな
いと香りと辛味、出ないんですよ。プラスチックの方でやったら、ボロボロになって 全然辛くならない。ですから本わさ使うお店、必ずこれ使うんです。本わさ使う寿司
屋さんは高級のとこだけでしょ? 今そういうとこはみんな交際費だとか抑えられて るんですよ。特に有名な料理屋さんほど落ちこみ大きいですね。(これ一つあれば長
持ちするのでは?)うん、それでもねえ、私たちほんとに頼もしく思ってたんだけど ね。
●力任せにすりおろすと水ばっかり出ちゃう
こういう四角いのも不思議なほど数出てるんですよ。あちこちで暇な奥さんを相手に 料理教室開いてるのね。で、そういう人達がこれ買って行くんですよね。(料理教室
行っておろし金を買う?)はい。(これは長いおろし金?)うん。(一度に大根おろ しがたくさん出来る?)これ、切れないと美味しくないですよ。要するに力任せにす
りおろすと水ばっかり出ちゃう。こういう鋭い歯で切ると水分たっぷり含んでおろせ るんですよ。だから美味しいんですよ。(目の数が多い?)ええ。(おろしやす
い?)これは楽ですよ。(これ高そう!)デパートだと今7700円で売ってるかな。本 だと女性週刊誌が定番でずっと出すことになって。(でも男も喜ぶのでは?)いやこ
ういう値段の高いおろし金だとか鍋とかいうのは、やっぱり男の人が関心持ちますよ ね、料理始めた人。まず道具からなんですよ。(料理人もどきの気分?)だから値段
言わないですね、そういう人は。いいものだったら。(これの名前は?)ただ箱型っ ていう名前。(おろし金の箱型?)ええ。それで、まだ決まったわけじゃないんです
けど、ソニーの人が見て、ソニー、通販やってるでしょ? 売りたいって。(ソニー の通販は高いものしか売れないのでは?)なんかそうらしいですね。だから、これと
なんかを組み合わせて。(わさびおろしといっしょに?)はい。そういう話あるんで すよ。

●脱サラで家で継いだんですよ
(若い頃はこういう鍋を作ってた?)いや、わたし途中からなんすよ、脱サラ組です から。脱サラで家で継いだんですよ。(いくつぐらいから?)サラリーマン十年やっ
てからですね。(ではもう随分長い?)そうですね。(やって良かった?)いや、そ れはまあ。いい点は単身赴任しないで良かったかな、ぐらいですね。勤めてりゃ絶対
ありますからね、単身赴任。(転勤のある会社だった?)ええ、全国に。(職人の息 子で会社に勤めてニ、三年で戻って来るのが多い?)やっぱり組織に合わないから。
(大矢さんは子供の頃から手伝ってた?)子供の時から手伝ったことは無いですけ ど、仕事見てますからね。(父上はもう亡くなった?)ええ。だいぶ前に八十いくつ
で。だから八十過ぎまで仕事やってましたよ。ほんと死ぬニ年ぐらい前まで仕事やっ てましたね。(で、大矢さんの息子さんは?)いや、うちまだやってないんです。後
継ぎ居ないんですよ。(失礼な言い方だけど、おろし金一筋の職業があるのが不思 議!)いや、うちから田舎行ってる人でも、やっぱりこれだけでずっとやっていける
んだろうかって心配してましたもんね。(でも大手は絶対入って来ない?)大手が ね、やるほどの量は売れないんですよ。だからいいんですよ、競争相手が出なくて
ね。あれもそうですよね、風鈴屋さんなんかね。あそこだって大手来ないですよね。 だから独占的にやれるんですよ。(いい品物がどこにあるかを知らず、代用品しか目
につかないから、高いと言う人が多いけど、それほど高くなのでは?)そうですよ、 と思いますよ。
●腰が痛くなったり、指先が痛くなったり
(仕事でつらいのは?)うん、まあね、やってるうちに自然に覚えちゃいますけど ね。いちばん苦しいのは腰が痛くなったり、指先が痛くなったりですよ。おんなじ姿
勢でずっとやるでしょ? その痛みが治る頃には腕上がって。だから辛さってそれで すね。(指物屋は床にべったり座り込むけど?)うちも以前は床に腰下ろして、もっ
と低い台でやったんですよ。それで私が腰掛けてやった方が楽だからっつうんで、こ ういう腰掛け式に。
●注文によって四種類作ってますね
(目の種類に呼び名は?)いえ、そりゃ無いですけど、目の大きさによって。一番大 きいのは大根用の目ですよね。もっと大きいのは鬼おろしっていうんですよ。それか
ら小さくて芋、生姜、わさびっていう順番。だから注文によって四種類作ってます ね。寿司屋でわさびしか使わないからって言うお店は裏表わさびの目で作って納め
る。だからとろろ芋の専門店だったら芋用って注文来るんですよ。何にも言われなか ったらこのまま出す。(普通の家庭は大小一個づつ?)最近あんまり季節感は無くな
ったんだけど、ちょっと前までは五月ぐらいになると鰹(かつお)が出るでしょ? そうすると生姜のおろし金がうんと出るんですよ。(でも不景気になると影響があ
る?)業務用に頼ってたら暇になっちゃいますよ。だから一般家庭用ね。(野菜によ って目の形も違う?)いや、それはいっしょです。(目の粗さが違う?)ええ、そう
ですね。

●今、もういきなり仕事だから
(修業は何からやる?)今、もういきなり練習しますよ。(いきなり?)うん。ほら こういう切れっ端があるでしょ? それに目を立てる。(どれくらいで出来るように
なる?)昔だとこういう鏨(たがね)作るのから、要するにみんなゼロからやるわけ でしょ? そうすると時間かかる。今もういきなり仕事だから。うんと工程を細分化
して、それでその部分だけ一所懸命練習して覚えていくんです。それでまた次のステ ップですよ。(親方は仕事のまとめ役?)ええそうですね。
●奈良時代ぐらいから
(おろし金の歴史は古い)ずっと前、学習院大学の人達がうち来ていろいろ話しし て、調べてくれた。なんか奈良時代ぐらいから、これじゃないですけど、有ったらし
いですね。そんで今のこの形は、江戸時代の絵の入った百科事典があって、それに全 くおんなじ形、載ってるんですよ。(この形?)そうです、そうです、ええ。今は簡
略にして番号で大きさ決めてますけど、昔はね、目方で呼んでたんですよ、何匁何匁 って言ってね。で昔はほら、銅、貴重品だったでしょう? そうすとこんな圧延の技
術は無いですから、みんなこうやって塊を叩いて、延ばして、それで何百匁とかって いう感じで言ってたんですよね。で、今もうみんな規格で工業製品です。(あそこの
布がかかってる機械は?)あれはちょっと他の仕事で使ってるんですけどね。あとは 叩く大型機械。だから今、田舎の方でも、私達はいきなり越してって出来ないです
よ。そういう騒音立てる仕事やってる人の権利買ってやらないと認可されないです よ。(そのぐらい大きな音がする?)よほど大きい敷地あれば別ですけどね。すごい
ですよ。(鉋の職人と同じ?)あったでしょ? ドンドン叩いてやるやつ。あれとお んなじの使ってるんですよ。あと切断機だとか、いろんな機械。(田舎の方で?)田
舎の方で。うちでやってた人に叩いてもらって、それで送って来るわけ。
●それぞれ専門化して来てるわけですよね
以前は洗面器だとか、いろんなの作ってたんですよ。で、だんだんこういうのやる人 いなくなったから、これに特化して来てね。だから仲間の人からニ、三枚おろし金の
注文あったら、うちは融通してるし、他のをやってる人からうちも貰うし。そういう 風にやってます。それぞれ専門化して来てるわけですよね。 |