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-井戸の底から錫の板が出てくる
-師匠がいて、是非うちへ来てくれませんかと
-エジプト時代からもうあったんです
-関東で二人しか居ない
-手間が掛かろうが、こだわって行きたいね
-だからどこにもない色なんです
-気分で描いたから、それ一点しかない
-柔らかいもので拭くだけ
-昔の人の知恵ってすごい

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井戸の底から錫の板が出てくる

(お父さんの名前は?)(父)光二(みつじ)。(息子さんは?)(子)圭一ってい います。(屋号は?)(父)錫光(すずこう)。(品物は錫でできてる?)ええ、錫 ですね。(品物はどんな?)ええ、急須とか、徳利とか、茶筒とか、そういうものが 多いですね。後はそう、変わったところでは水滴とかね。(お習字に使う?)ええ、 お習字に使う。(これは何で錫?)あのね、所沢の方へいくとね、お神酒(みき)錫 っていって神棚にのせる、いわゆる榊なんか入れる、あれを錫を使ったらしいんです よ。こないだも神戸の震災ありましたねえ。あの後、井戸の底から錫の板が出てくる んですって、井戸の底から。で、要するに昔江戸の時代に入れたらしいんですよ、水 を浄化するために。ですから、昔から錫の徳利とか、それから花瓶とか、花もちがね 、大体二倍から三倍いいんですよ。だから、榊なんてもう十五ん日、十五ん日でとり かえるでしょ? ところがね、何でも無いんですよ、もつらしいんですね。そういう 、不思議なね、あれを持ってるんですねえ。(缶詰で錫が出るのは?)ああ、あれは メッキをしてあるから。要するに缶詰の缶をそのまんまにしておくと酸化するでしょ ? 空けっぱなしでおいとくとね、それで流れ出しちゃうわけですね、その周りの薬 とかが。それがいけないわけですよね。(錫自体は問題ない?)ええそうです、水を 浄化ていうかね・・そういう作用がありますから、かえっていいんですね。

●師匠がいて、是非うちへ来てくれませんかと

(昔から江戸?)(父)師匠ってのが大阪のかたなんですよ。で、東京に出てきて、 その師匠んところにね、弟子入りして、今もう四十八年ですか、この道入ってね、や ってますけどね、ええ。(親方が?)初代なんですけどもね。(いつ頃から?)うー んとね、そう何年だろうね? 昭和二十何年だったっけね、三年ぐらいかしら、だか ら四十八年やってるんですよ。(この道に入ったいきさつは?)(父)これはねえ、 あたしもね、父親が早くいなかったから貧乏人でね、中学のときから新聞配達だとか 、納豆売りだとかしていたら、近所にこれやっている師匠がいて、是非うちへ来てく れませんかと、あたしの母親に言ったらしいんですよね。で、どうだいやってみない かと、じゃあ仕事見せてくれって行ってみたらね、面白そうなんですよね。でもでき るかどうか、ちょっと難しそうだしね、やってみないとわかんないと、で一応やった らどうだっていうのがきっかけなんですよ、母親のね。(それは何歳?)それが中学 三年生のときに言われて、卒業したら来てくれと。で、われわれの時代ってのはみん なね、大学行く人も少なかったしね、みんな中卒でね、いわゆる金の卵ですよ。(弟 子入りという感じ?)そうです! 弟子入りですね。だからもう何やっていいのかわ かんないんですよ、自分では。親の言われるように、どうだいやってみないかって言 われたのがきっかけで、一年やったら面白くって、二年やって、三年やってもやめら れなくなって、自分でやりたいって欲が出てきたんですね。(弟子はほかにも?)え え、いたんですよ。でも、結局残ったのはあたしだけなんですね。

●エジプト時代からもうあったんです

(錫工芸は昔からある?)ええ、江戸の昔から。もう千三百年前に日本に来たらしい んですよ、中国から、要するに茶壷として。だから、昔の茶箱の中に錫が張ってあっ たでしょ? あれ、錫なんですよ。だから、湿気ないしね、衣装箱にすれば毛糸なん かいつもふわっとしていたり、そういった効用があるわけですよね、錫っていうのは ね。(江戸以前は?)そうですね。もっと古くから言うとね、エジプト時代からもう あったんですって、錫はね。で、ヨーロッパあたりですとね、やっぱり毒殺とかあっ て、要するに色が変わるっていうんですよ、毒が入ると。だから十八世紀ごろ盛んに 、だからヨーロッパ行くとよく分かると思うんですけど、やっぱりジョッキとかワイ ングラスというのが、みんな錫なんですよ。そのために使ったらしいんですね。それ で、日本も江戸時代は、皇族とか大名が野外に、いわゆる野点に行くときの徳利は錫 で作ったんですよ。毒が入ると色が変わっていくわけですね。銀ですと普段黒くなっ ちゃうでしょ? ところが、錫ってのは変わらないんだな。だから毒が入ってきて初 めて変質するわけですよ。やっぱり錫ですよ、昔からね。(あの蓋のついたビールの ジョッキは?)ええ、あのジョッキは錫なんです。あれは、ドイツあたりのね。だか ら、このあいだもね、三年か四年前にね、フランスのほうへ周ってきたんですけど、 やっぱり古いお城へ行くと、こう暖炉の上に並んでいるジョッキが錫なんですよね、 ええ、つくづく見てきました、ハッハッハッッ。(ビールを呑む?)いや、それほど できないんだけど、たしなむ程度なんだけどもね、やっぱりビールは旨いですよ、冷 たくて。いつーまでも冷たい。保温性に優れているんですね。だからワインとかそう いったものにも向いているんじゃないですか? で、外の温度を受け付けないわけで すよ、お茶箱でわかるようにね。

●関東で二人しか居ない

(錫の職人は全国で何人?)(父)現在? そうですねぇ、関東で二人しか居ないで すよ。大阪にはねえ結構いるはずだけど、でも大きなところが倒産しちゃったんでね 、みんな錫の職人はそこに納めてたの、そこで仕切ってたわけですね。ところが、お ととしあたりでしょうか、他に手を広げて倒産しちゃったんですね。で、無くなっち ゃったもんですから納まるとこがないんです。ですから、ここでずいぶん辞めたんじ ゃないですかね、大阪のほうでもね。それから鹿児島にあるんですよね。(展示会と かで売る?)そうです、デパートの展示会ですね。職人展みたいな形で、行ってるわ けですね、年に何回ってね。それが無かったら食っていけないんですよ。あと注文、 デパート関係のね、あちこち出てますから。(名前が売れてくると大変?)いや、( 笑)たいしたことはないですけど。(職人が少ないのは問題?)そうなんですよね。 (息子さん以外には?)いないんですよ、ええ、だから厳しいですよ。本当は弟子が 欲しいけどね、みんな年とって来るんですよね、そうするとね、ちょっと教えるのも ね。(年取ってくる?)要するに三十過ぎ、四十過ぎんなって、(もっと若くないと ?)ちょっと、覚えるにはね、ええ、若いほうがいいですね。(息子さんは何歳?) せがれはね、もうサラリーマンになって、それから入ってきたからやっぱ遅いですよ ね、(子)まだ四年ぐらいですから、三十代からですね。(きっかけは?)そうです ね、えっと、独立したのが何年だっけ? (父)六十二年なんですよ、っていうのは ね、勤めたところが辞めちゃったんですね。それで、知らないですからこれしか、あ たしは仕事をね、だからね、じゃあたしにやらしてくださいってことで、そのまんま 自分でやるようになったんですね。(それまでは錫の会社?)ええ、勤めてた、そう 三十八年間勤めた。(場所は?)川口の陸橋のそばに、駅前にあったんですけどね。 (住いは?)やっぱりその近くにいたんですけど、ここが売り出されたんでね、こっ ちに買って。(移ったのは?)(昭和)三十八年くらいかな。(子)弟が生まれてか らだね、三十九年、いや四十年だ。(父)二十年くらい住んでからここで始めたんで すね。(家に工場を作った?)ええそうです、足して工場を始めたんですね。(子) 独立が後になりますけど、学校卒業した頃にはまだ家業じゃなかったんですよね。で 、(わたしは)普通にサラリーマンの道に行っちゃったんですけど。(父)うち、始 めたんで、やってみようかなというんでね。(子)平成八年、年明けからですね。( 子どもの頃から仕事を見てた?)(父)もう小さい時から、近所に住んでたから行っ たり来たりして、もう仕事見てたんですね、ほとんどね。(子)そういう意味では仕 事の違和感てものは別にないですね、入りやすかったですね。だから、子供のころと かいたずらして、よく怒られましたけどね。(いじってた?)ええ。(お父さんは厳 しい?)(父)優しすぎちゃって! (子)なんだよ! (父)エッヘヘヘ。

●手間が掛かろうが、こだわって行きたいね

(これ叩いて丸み出す?)(父)これはね、鋳物なんですよ。溶かして、流し込んで 、それから轆轤(ろくろ)で引いて、手引きですね、こうずーっと形を整えて、それ から絵付けをして、で、それを硝酸につけるんですね、ちょうどエッチングの技法で す。そうすると絵を書いた所は溶けずに浮き出てきます、で、硝酸で溶けて凹んだと ころへ、梨地(なしじ)みたいになるんですけどね、そこへ漆を塗りこんでいく。け っこう工程があるんです。(難しいのは?)そうですね、やっぱり引き物でしょうか 、轆轤でね、要するに同じ肉の厚みでスーッと作んなきゃなんない。それはもう、ほ とんど勘ですから。手で、こう感覚でね、覚えるわけですよ。それが今、大阪の方で は機械化して、かなり効率的にね、出来るようになってるらしいんですけどね。私は こだわって手でやってるんですよね、その方がやっぱり味わいがある、ええ。どうし ても機械化しちゃうとおんなじように出来るでしょ? 面白くもなんとも無いんです よね。で、引き目がやっぱりこう出るんですよ、その機械のね、それが気に入らない ですね、おんなじような引き目があるでしょ? (大量生産するようなところはいっ ぱいある?)いや、そんないっぱいはないですね。機械化した、いわゆるプレスでも ってボーンていうふうに作るとこもできたって聞いてますけどね、でも売れないみた いですね、味わいがないからね、安いんですけどね。やっぱり手引きの轆轤ですよ。 絵付けにしたって筆で手書き、印刷じゃあね・・・いいもん作るには、手間が掛かろ うが、こだわって行きたいね。

●だからどこにもない色なんです

(あのグリーンは何という色?)(父)あれが漆なんです。漆に顔料入れるわけです 。そのグリーンの色を私が出したんですね、だからどこにもない色なんです。(錫光 の色?)ええ、それが千歳グリーンてゆって、その色を編み出したわけです。これを 作ったおかげで、昔は黒と赤、黄って、その色しかなかった、ベンガラ色ってね、地 味でなんとなく目立たない、そこにグリーンが入ったものですから、師匠がやってた ときより私の代になった時に俄然注目されて、売れるようになったんですよね。以前 は売れなかった。(これも轆轤(ろくろ)で引く?)そうです、轆轤で引いて、こう やって手書きで描いて、絵をね。これがグリーンのね、千歳って色です。(塗ったあ と鑢(やすり)でこすると地が出る?)これはね、硝酸につけているんです。腐蝕し てこのざらざらがでるんです。これはね、この表面に松脂をまぶしてんですよ、それ で凹凸が出てる、それだけ手間かけてる。だから松脂がついてるとこは凹凸がすごい でしょ? それから漆塗って、一晩室(むろ)にいれて、柔らかい布(きれ)で磨き 上げる。鑢なんか使っちゃあ凹凸全部削り取れちゃうよ。

●気分で描いたから、それ一点しかない

(帯留は流して形になったものに?)(子)描いてるんです、柄(がら)をつけて、 漆塗って出来上がりってことに。(だから大きさが?)ええ、まちまちですね、不揃 いですね。(その時によって?)そうなんです。(形を見てこれは何の柄にしようか とか?)ええ、そうですね、(父)エッヘヘヘ。(楽しい?)(子)いい加減だけど おもしろいね、(父)いいかげんなんですよ。(子)でも、職人ってだいたいそうで すよね、気分でやるっていうかね、(父)エッヘヘヘ。その大きい方の水滴だって気 分で描いたから、それ一点しかない。だから買った人はね、(子)お得ですよ。これ 売れちゃって忘れちゃえば、つぎ作らないからね、同じもの。だからま、写真残れば ね、こういう絵だったってわかり、出来ますけどね。(父)細かいからね、あるんで すよ数が、だんだんだんだん増えてきてね。(子)形も気分で変えちゃうからね。( 手作りだからサイズが違う?)そうだね、それ書いといてもらわないと。(笑)こう いうグラスや杯は大体、規格でね、(父)全部、形なんかも決っちゃう。(子)手作 りはね、一個しかないってのがいいね。(これは?)(子)鉋(かんな)です。もう 、何百丁ってあるんです。(作る品物によって?)(父)そうですね、型によってね 。

●柔らかいもので拭くだけ

(錫は柔らかい?)(父)そうですね、でね、割ったのがここにあるんですけど、こ ういう層をしているんですよ。(縦に裂ける?)そうそう、だから噛むとコリコリっ て音する、で、判断できる、錫だってことがね。だからこういう層が品物の間に入っ てますから、ちょうど発砲スチロールと同じ役目をする。(断熱?)断熱ね、そうい う役目、これが特徴です。(錫の手入れは?)(父)手入れはね、もう柔らかいもの で拭くだけですね。(洗ったりはしなくても?)ええ、茶入れなんかは洗わない方が いいんですよね、そのまんま使ったほうがね。酒器とか急須なんかは、さっと水かぬ るま湯でゆすいで、柔らかいので乾拭きしとけばいいね。

●昔の人の知恵ってすごい

(父)これ江戸時代の版画です。轆轤(ろくろ)でね、片っぽうの人が轆轤を回して 、もう片方が回転の時に引いてるわけですよ。うちの轆轤も同じですよ、ただ動力に したってだけです、いづれも変わってないね。(江戸時代も鋳型に流して?)そう同 じです、だから昔と全然変わらない。そういう点ではね、恥ずかしながらだね。だっ て、昔の人が井戸に入れたっていうんだから、錫をね、すごいでしょ? ちょっと、 今の人には考えられないんじゃないか、ねえ。そういう点でいくと昔の人の知恵って すごいなって思うもんね、改めてね。(今でも分からない?)これからどんどんコン ピュータが発達して分かんなくなっちゃうんじゃないですか、こういう知恵が出なく なっちゃうんじゃないですか。(五枚揃えるのも手作業?)そうです、同じようにや って、作って、重なるようにしていかないとね。これがそうですよ、ほら動かないで しょ? で、今度は梅型にやすりがけして、手作りで作っていくわけですね。(手間 がかかる?)手間がかかる。(四年やってどう?)(子)やっぱり、難しいですよね 、覚悟はしてたけど。(父)われわれの若いときに入ったといえば、夢中でただ命令 された通りやってたからね、それほど難しいという感覚は無いんですよ。いわゆる小 僧にできるものしか、やらしてくんないからね。やっぱり、歳ある程度いってから覚 えるとなると、いきなり無理なものも要求するようになるからね、あんまり簡単なも のばかりやってたんじゃ、給料払ってんだからね、ハッハッハッハッ。もっといいこ ともやってもらわなきゃっていうのね、(子)ハッハッハッハッ。(父)本人もその 気でやってるから、われわれの若い頃とは教え方が違ったかもね。われわれなんか何 にも若い頃考えないから、与えられるものだけだから、欲がないからね、でも自然に いっちゃうんでしょうね、長年のうちにね。かえって遠回りしてでも基礎をじっくり と身についていくっていうか、昔はそういう教え方だったんですよね。仕事もたくさ んあったしね。肝心なところを教えないっていうかね、自分で盗めっていう。だから 何とか覚えようって、そういう欲が出たときに、その盗むような気持ちが出てくるわ けですよ。そうすると向上心がよけい出てくるんでしょうね。


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