●やっぱりここへ戻ってきちゃう
(何代目?)二代目、親父は十七年前に徃ったから、九年寝ちゃってたから。創業は大正の、何年だろう、関東大震災の五、六年前。その前は入谷(いりや)でやっていたの。関東大震災で区画整理になってここへ来た。ここは原っぱだったから、安かったから。おれはここで生まれたの。(門前の小僧?)いやそうじゃないんだけどね。あんまり好きな商売じゃあないんだけど(笑)いまだに好きじゃないもの。(おかみ)三男坊なんですよ。長男、次男嫌がって継がなかった。(親方)骨がおれる商売でね、売ってから配達があるでしょ、ね?。で、前はね、若い衆も何人かいたけど、今はいないから、倅(せがれ)が一人やりだしたけど、まあ、や(嫌)だったらやめるだろうしね、わかんないね。(おかみ)おじいちゃんの姉さんのお婿さんが箪笥屋だったの。そいでおじいちゃんがそこへ奉公して箪笥の修行をして、東京へ来て入谷で開いたの。箪笥屋以外、俺はやることはできないと言って、ずいぶん職人さん、あるいは若い人も育てましたよ。おじいちゃんの代はね。(親方)もっと儲かる商売がね、あるんだろうけど、頭悪いからねえ、なかなか、そっちの方は・・・だめなのね、だから、もっと儲かる商売さがしたんだけどね、でやっぱりここへ戻ってきちゃう。(手に職があるから戻れる?)いやあ、いいんだか悪いんだかさっぱりわかんない。
●大きい箪笥ばっかりじゃなく
(おかみ)今そんなにさあ、お着物着ないっていう時代になって、箪笥っていうと、お洋服入れてもいいんですよってゆっても、やっぱり着物のって考えられるわけ。(親方)洋服箪笥の戸ん中、開けるとね、お盆が入ってんですよ。あれはね、着物じゃなくって洋服を入れるために作ったもの。大(おお)洋箪笥は、大きい戸で、洋服を入れるから大洋箪笥。その前はねえ、引出しばっかりだった。それをどういう訳か、普通の一般のお客様は、あれは着物を入れるもんだと。それがね、組合の一人の所へNHKから、そういうお盆が入ってる箪笥、いつ頃出来たんだっていう風に聞かれたんでね、うちに細かく書いた本があっからって、明治の二十年の三月何日って書いてあるから、このご本貸してやるよって、貸したんですよ。で、「日本人の質問」って番組の四番目の質問のときに出るって言うから。で、だんだんだんだん、着物ってえのは着なくなっちゃったから。でも今、箪笥売れてんですよ、着ないけど着物がいっぱいだから。着物買わなくなって、着物がいっぱいじゃなくなったら売れなくなっちゃうんじゃないか、とねえ。(おかみ)あんまり大きい箪笥ばっかりじゃなくて、ちょっと整理箪笥のようなちっちゃいものも出るんじゃないかっていうふうに思い出したのよね。(親方)やっぱり、こういった小物も、客集めじゃないけどね、結構こんなもんでも、いくつか売れれば、金嵩(きんがさ)がね、三万前後のもんですけどね。(おかみ)うちは、ほんとにもう桐以外のものは一切やってないですから、全部桐ですから。だから、けっこう遠くは北海道から九州までお客様で仕事やってますねえ。(雑誌見て来る?)(親方)そう、雑誌とかいろんなもん見て来るんでしょうね。職人ってよくテレビに出ますよね、最近。だから、そういったのを見てわざわざ来る人があるんですよね。
●母ちゃんまで引っ張り出していく
(親方)伜は二十八、九。勤めてたんだけど、会社が潰れちゃったわけじゃないんだけどね、親が年取って骨折れたの見て、しょうがないんでやりだしたかどうか。それでいて、合うか合わないかわからないけど、やって、や(嫌)だったらやめりゃいいんだ。なにもね、これが親がやってるから俺もこれって、昔と違うから。昔は、儲かんない商売でもね、親がこれをやってると子どもも自然に継いじゃった。昔は、こうもり傘の直しとか、鋳掛(いかけ)屋さんなんて、そんなのがあったんですよ。でね、こっちの友達じゃないけど、貧乏長屋でね、それでも親父の後継いで、「こうもり傘の直し!」って言いながら後くっついてんだ。(笑)何であんな商売継いたんだろとと思ったことあったけどね、今はそうじゃないから。儲かりそうな商売だなと思っても、やだって言えばそれまでだし、儲かんないからやるなって言ってもやるって言えばそれまでだし、(笑)自然の成り行きで。親があんまり骨折れたら、強(し)いてやらしたいとは思わない。また、継いだのはいいけどね、こんど配達が大変なんですよ。母ちゃんまで引っ張り出していくから。だから若い衆がいる時ならいいけど、こんな箪笥をね、担がせられるとは思わなかったって、うちの母ちゃん言うから、うん、骨折れてしようがねえって言うから、男前で我慢してくれって、えへへへ。だから「今度生まれたら、もう箪笥屋へ来ないか?」って言ったら、「来ない」って言うから。又、男前だから来ちゃうだろうって、えへへへ、言ったんだけどね。ま、ともかくねえ、嫁さんがまた骨折れちゃう。うちの母ちゃんみたいなことやらしたくないなって。細い嫁さんいるんですよ。前の、出たところのマンション買ったとこへ、入ってっから。「お前みたいな苦労を嫁さんにさせたくないな」って言ったら、「あたしには苦労をさせて嫁さんにはさせない」って、あははは、言われちゃった。難しいんですよ、えへへへ。
●あまり遠くはなるべく行かない
(親方)これが目玉的な商品で、あっちのと同じ商品なんですよ。ただ、金具をゴテゴテつけたのと、こういうさっぱりしたのが違う。金具付けたのよりも、値段も、金具の数が少ないから安いし、一般的にくどくなくていいってお客さんが言うから。あれは好く人は好くけど、嫌がる人は嫌がる。あれが売れる時はあればっかり売れるんです。今回は、あれはみんな嫌がられちゃって、こっちの方がいいって言うの。(波がある?)偏るんですね。ばかに売れるときと、これが売れないときがあるんです、ま不景気だからね。これぐらいのが前は一つの催事で二本やそこら、一週間で出たんです。こういう箪笥ってのは大きいからね。よく江戸職(人展)やなんかで、「町田さん広島まで行ってくれ」とか言われっけど、遠いんでね。あまり遠くはなるべく行かないようにしてる。(関東一円?)そう、日帰りで配達行って帰って来られるぐらいじゃないとね。売ってあんまり遠いとね、具合悪いとかなんとかって言ったら、直しに行かなくちゃいけない。引出しだって山や川のそばだと湿気てね、東京は乾燥してっけど、固くなるし、だから遠くで売ったやつだから、知らないっていうわけにいかないんですよ。責任っていうのがあるからね、売った以上は。だから、後々の責任を考えるとあまり遠く、北海道でやったって、引出しが固くて開きませんよって言えば、やっぱりそこまで行く覚悟じゃないとね。今年はねえ、正月早々から北海道へ行ったんですよ。でも、北海道は不景気だといっても、まあまあ売れたのかしら。あと、送り出すのが大変でね、役所が入ったんで、そういうの一切出してもらって、そのかわりデパートの発送センター入れなくちゃならない。そこまで持ってって、あと送ってもらう。だから、あんまり遠いとこっていうと催事の準備とか仕度(したく)でね、大変。
●ちゃんと作れば三百年は壊れない
(親方)だいたい、桐はやわらかくて傷になりやすい。ただ、桐っていうのは、他の木と違って五百年、六百年たっても崩れないですよ、杉とかそういうのは割れが入っちゃう。欅(けやき)と桐は長持ちがする。だから、じきそばで骨董をやっている人のね、兜の箱を作ってくれって言われて、前によく作ったことあんですけれどね、五百年ぐらい前の兜の入った桐の箱入ってても、しっかりしてるんですよ。だからちゃんと作れば三百年は壊れない、と思うんです。
●人間っていうのは贅沢
(この箪笥は?)(親方)昔の箪笥にしては、まあまあ悪くない品。(どれくらい前の?)八十いくつのお婆さんの嫁入り道具とか、九十近い人が。(修理?)そうそう。それを削り直して、新品にしたの。昔の箪笥ってのは、ろくなもんないんですよ。生活水準が高くなるとお客様はだんだんいいのを買ってく。車もテレビも今から三十年前のもの無いでしょ? それ出したって買ってくんないもん。箪笥だってやっぱりね、お嬢さんが三人いると、最初のお嬢さんはこれ位、ところがだんだん贅沢になって、やっぱり生活水準が上がると箪笥もそれに合わしていいものを、もっとよくなると、またそれに合わして、うんと儲けてやろうっていうんで。(笑)ま、そういうわけじゃないけど、結局はそういう風に、人間っていうのは贅沢、だんだんだんだん、いいもんいいもんってなるから。だから一回いいもん買っちゃうと、昔のものは買えない。いいもん買っとけば、直しをしても新品同様にきれいになるんですよ。楽してきれになるんですよ。安いやつってのは、骨折って直してもきたない。

●落っこちそうで、落っこちない
(親方)箪笥は結構売れてるんだけど、何年先になると売れなくなっちゃうかもしれない。なんとも言えない。この桐箪笥っていうとね、古めかしいもんだから、戦後間もないころね、もう桐箪笥なんて買う人はいなくなっちゃたんで、売上げが下がっちゃった。で、洋家具のほうに移っちゃったんだけど、やっぱりね、駄目んなりそうで、駄目んなんない。グライダーと同じで落っこちそうで、落っこちないで飛んでんの。(笑)いつ落っこちっかは、わかんないの。グライダーは風まかせでね。科学の先端行くっていうか、プラスチックとかビニール、あれが出始めた当時ね、あれが儲かったわけね。あれやったら儲かんだろうなと思った。ところがああいう商売はかえって今だめなんですよね。もう量産で中国からも入ってくるし、商売やってらんない人多いでししょ? 進歩している商売だから先あるとはわかんないしね。もうだめだ、もうだめだと思ってもまだつぶれない。
●自分のうちの寸法
(自分で作ったものは見てわかる?)(親方)だいたいわかりますよ。表から見てはちょっとわかんないけどね、開けて見ればわかるんですよね。自分のうちの寸法の規格ね、ほかはこうだけど、うちはもうちょっと背を高く作るとか。(引出しを入れるとほかのが出るのは?)棚の奥に穴あいてんの。そこあけないと引出しが入らないです、中へ。(出て当たり前?)そうなんで、出ないと引出しが入って行かないんですよ。(物が入ってても出る?)ある程度出ます。で、そういう風にならないように作っちゃうと、下手だーって言われちゃうから、わざとふいごみたいに出るように、えへへへ。
●三日遊んでると仕事の方が
(一日も休み無し?)やっぱりね、仕事も飽きちゃうから、えへへ、しょうがないんでやってんの。なんにもしないと退屈しちゃうしね、で、仕事始まると飽きちゃうしね、しょうがないな。若いときと違ってね、もう根が続かなくなって。遊びと仕事とどっちが面白いかって、三日遊んでると仕事の方が、遊びも飽きてくるわね。仕事のほうが飽きないかもわかんないけど。でも目が悪くなってくっとね、もう仕事なんかも、だんだん能率落ちてくるし、ま、念には念入れて作んないと。若い時より正直言って腕はおちますよ。四十代から五十代が一番腕がいいですよね。
●不思議な人間が居る
(親方いくつ?)三十四ですよ。(笑)(そうだと思った!)それに三十いくつ足します。(笑)昭和七年生まれっていうとね、戦争中あんまり旨いもんなかったの。玉蜀黍(とうもろこし)のね、馬の餌みたいなもんとか、だから骨が細くて、貧弱な男ばっかり多いんだよね。みんな早くあの世へ行っちゃう。だけどね桐を使ってると、あの簾の田中会長さんなんかね、「医者行ってもどこ行っても、俺ねえ、町田さんの名前つい出しちゃうんだ」って、「なんで?」って言ったらね、風邪ひいたこともないし病気したこともない、不思議な人間が居るって。少しは俺だって(笑)風邪くらいひきますよって言ったの。だから寝たことが、みんな無いって思ってんですよ。そしたら医者が、桐いじくってるから元気なんですかね、ってこう言ってたって。桐は体にはいいんですよね。腰の痛い人ってのは、桐の板をひいて寝てると直るって。(仕事場で座布団はしない?)職人ってのはみんなしてんですよね。でも、なんか邪魔でほっぽりだしちゃう。
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