●歴史
おやじの代からですよ。僕が二代目で、現在3代目がいます。おやじが始め たのが大正十年代、僕は戦後の一番から。(ずっとここで?)この隣町だったんです
よ。ここは十一年になります。だいたい生まれが下谷ですからね。われわれの業種っ ていうのはね、台東区が圧倒的なんですよ、昔から。集中的にみなさん居たんですね
。いわゆる、わたしたち打物師、キンコンだから打物っていうですけどね、このへん は千駄木派っていわれるくらい人数がいたそうです。
●屋号
北間製作所です。

●今の仕事
銀よりもね、金の仕事が多いんですよ。うちなんかは金、プラチナが九 割っていう感じですよ。銀のほうが少ない。金が好まれる時代なんです。日本人、金
が好きですねえ。結局、おカネの価値が下がっても、あの価値はなんにも変らない。 そんなことなんじゃないですか? (金は技術が違う?)同じだけど、すこし慎重に
やらないと。仕事はやりにくいかもしれない。でも銀のほうが面白い。作ったものは 、金は金色だけでしょう。銀はいろいろな方法があるんですよ。ほかの材料と合わせ
てみたりね。いろいろできるんですよ。(金は純粋さが勝負?)だから純金だけが売 れるんですよ。十八金だと嫌なんですよ。今ね、仏具が流行ってるんで、売れ筋は仏
具。花立てとか、線香立てとか。とくに売れてるのはお鈴(おりん)。ところが純金 が少ないですよ。純金、やらかすぎて音しないからね。でも今やってますよ、うちで
は。そういう材料があるらしくて。(仏具作るのは面白い?)あのね、商売だからや りますよ。やってるうちにね、位牌って言われてね、さすがに一歩引いたみたいなこ
とありますよ。
●得意技
(職人によって得意が?)ありますね。簡単に言って、金工品っていうの は丸と四角と、まるで違うんですよ。いわゆる箱物(はこもの)と丸物(まるもの)
。丸物やっても箱物やらないよっていう人はいますよ。日本の煙草箱なんていうのは 木で作って、そこへ薄い銀を張るっていうから、すぐ壊れてしまうのね。ぜんぶ金属
で作るっていうのは大変なことなんですよ。だから、うちのおやじは箱をやってると ころから修業したんですね。だから僕も箱を覚えられた。やらなきゃまるっきり覚え
ないんでね。で、そのうちおやじは箱だけじゃ面白くない。丸っていうよりも、何で もやりたいですよね。やっぱり打物師にならなきゃいけないっていうんで打物師にな
ったらしいんです。だから僕らも、何でもやるようになってしまった。(古い箱を出 して)こういうのを金属でぜんぶ作るっていうことは非常に嫌なんですよ。技術的に
むずかしいんですよ。おやじがそういうこと言ったんでね、畜生、俺もやってやらあ って、十六のとき自分で作ったんですよ。今だに大事にとってあるっていうのいいで
しょう? こんなきたないのを。戦後すぐ、舶来の糸ノコで。和製のは切れないの。 これ抜くのにどれくらいかかったか。
●鍛金
たとえば、ぐい呑み作るとすっと、一枚の平らな板から角(かど)っこを形 にしていくんですよね。絞(しぼ)りっていうんですけどね。それが鍛金っていうこ
となんですよ。われわれ銀器屋って昔いわれたぐらいなんで、銀を叩いて形にするの を鍛金っていうんですよ。何がいいって、面白いからやってるんですよ。幸せいっぱ
い! だってそうでしょ? 好きな仕事をしてね、飯(めし)食えてっていう感じで しょ? いやいや仕事してる業種の人、かわいそう。(サラリーマンは?)気の毒。
●修業
(始めたのは?)戦後一番っていうからね、十五のときですよ。もう七十が 近いんだから、大きな声でいえないけど。で、戦後すぐって何も無いでしょ。おやじ
は戦争中のゴタゴタで新潟の軍需工場に行ったわけですよ。鍛金の技術生かしてね。 鍛金だから鍛造が得意なわけですよ。基本は同じですからね。で、鍛造の会社の工場
長になったんで、うち全部むこうへ行って。それで戦後、(東京は)焼け野原になっ て、新潟だけ残った。新潟は空襲受けないんですよ。だから機械はあるし、工場もな
んだか馬鹿馬鹿しく広いみたいなところで、何十人かで駐留軍の仕事ずいぶんしまし たよ。それで見ててね。まだ学校行ってましたからね、あの時。教科書ないんですよ
。五百人集めて、先生がひとりでもって教壇でやるっていう感じで、こっちは書くだ け。勉強なんてする気持になれない。お昼(しる)にうちに帰ってきちゃってね。お
昼から仕事。なんかやることないかねって。そんなことで好きんなっちゃった。もう 学校行く気はない。その頃から面白かったですよ。でも、その頃は真鍮とか、銅とか
が材料、金銀無いんでね。
●息子
もう三十五、六。(二人でやってる?)ところがね、今われわれのやってる ことと、ちょっと違うとこででやってますよ。だから、仕事が好きで、面白くて、飯
(めし)が食えればっていうのは、若い人たちには向きませんよ。もっと儲かること が、っていうことでしょう。いい生活させたい子どもにとかね。おかあちゃん大事に
したい。でも、やっぱりねえ、技術生かしましてね。あいつのはプラチナばっかり。 工業製品っていって、プラチナって触媒にいいでしょう。そういうことでいろいろ使
うんだと思うな。お得意さんから口止めされてんの。あんまり口外しないでくれって 。(じゃ、親方一代で終わる?)どうなんですかね、まったくわかりませんね。
●若い弟子
(新しい弟子を?)それが一番の問題。やりたい人が増えてきたの。一時はもう後継者不足でね、みなさんでって補助金くれたりしたんですよ。でも、来月
からうちの組合でやるんですがね、お金くれるっていったって多寡が知れてるでしょ う?十分なことできないの。だから月謝をもらってやるようになったんですよ。そ
のかわり、今度は教える側も、教わる側も厳しくなりますよね。遊びじゃないという 。その辺がいいことだと思ってるんですけどね。おれ責任者なんで困ってるんだよね
。人に教えんのは一番むずかしいからね。だけど、楽しい!自分がやるよりもっと楽しい。まだ十代はちょっと少ないんですよ。二十代。だいたい高校終わってちょっとなんかすりゃ二十歳(はたち)になっちゃいますよ。うちに来てる子とちょっと話
したらねえ、やる気あるんですよ。脱サラでね。けっこう居るんですよ。でも、受け入れ体制がないの。ただ、こういう家庭的にやってるところのほうが覚えるにはいい
んですよ。うちも法人にして保険とか、退職金制度とか、そういう細かいことをきち んとしないと。いい加減に、いらっしゃい、教えますよじゃね。でも、教えることは
教えようと思ってんの。二十歳で来年か今年の卒業が居るんで、頼られちゃったから 、少し面倒みちゃおかな。俺は教えるときは徹底的にやっちゃうの。あんたはちょっ
と過保護じゃないかって(人は)言うけど、過保護だろうが何だろうが、覚えるもの は徹底的に覚えちゃったほうがいいんだよ。倅(せがれ)なんかさんざん嫌な顔され
ちゃった。仕事っつうのは人の見て、盗んで覚えるっていう、あんなものは昔の話だ よね。教えるんだったら、それプラスもっといいこと教えれば、もっと早いじゃない
。基本だけ教えればあとは自分で考えるの当たり前だよ、っていうのが昔の徒弟制度 。今だに続いてますよ。まあ確かに自分で覚えたことって忘れませんよ。それはわか
りますけどね。俺も、おやじはぜんぜん教えないの。職人さん沢山いるのを見て覚え るったって、ちょっとひとこと聞きたいですよ。けっきょく見て覚えましたけどね。
(お父さんの職人の数は?)新潟に居たときは四十人ぐらいいましたよ。オートメー ション式だから。でも、東京へ来てからは減り、おやじが死んだ昭和四十一年ごろに
は四、五人いてやってましたね。(その人たちは近くで?)いや、みんな年取っちゃ って。なべ底景気のときに廃業したり。また若い人がやるようになったって、嬉しい
ですね。
●覚える
一つの物を作るのに時間がかかる、覚えるのも。作るのにひと月もふた月 もかかることがあります。ちょっと大きい物になるとね。だから飽きちゃうだろうと
思うけど、そういうもんじゃないかね。
●技術
金槌、木槌のほかに鑢(やすり)とか、糸ノコとか、細かいこといろいろあるんですが、基本的には金槌なんです。それで形つくる自体を覚えてしまうと、意外
と四角いもんでも何でも楽にできるのね。やっぱり金槌の使い方が大事じゃないかと 思いますよ。
●注文
注文品っていうのはわりとお客さんの好きなものをやります。でも、たとえ ば茶道具って、規格じゃないけども、決まりっていうのがありますよね。作法がうる
さいから。でも、お客様はまったくわかってないの、ほんとのこと言って。そいで、 ちゃんとした茶道の先生は金銀を使わないですよ。やっぱり鉄釜とか。そこをね、なんとか金銀使ってもらおうなんつってね。こないだ大阪で金の茶釜で金の茶碗でお茶
飲んでもらって、展示して、あたしはそこでちらっと仕事して見せたんですけどね。 やっぱり日本人、金好きなんですよ。めったにできないことだから、えらい人気でし
たよ。俺、作ってても、これで飲むのかなって感じだね。目方が重いしね。
●黒くなる
銀は黒くなるんで嫌がるってみなさん言うんですよ。指輪なんかも硫黄泉行ったら一発ですよね。それを利用してるんですよ、私たちは。ただ、優勝杯とか
スプーンとかは汚れちゃ困る。だけど、使ってれば汚れないんですよ。黒くならないんですよ。しまい込むから(いけない)。さらに、手で持ったものをそのまましまっ
ちゃう。指紋のところから色が変るって感じなんですよ。そういうのが修理に来ます よ。
●火
物を作るのにね、一回づつ火に入れなくちゃならない。火に入れるってことは 、ナマスっていって、やらかくするの。叩くと硬くなるんですよ、金属ってたいがい
のものが、鉛以外はね。火が無いと何もできない。火が使えれば、どこへ行って、何でも作れる。ところがホテルだろうが、デパートだろうが、火を使えない。いっぺん
だけ火を使わせてくれたら、お客さん朝からお昼ごろまで、見ている。お腹すかないんですか? わたしたち食事行ってきますなんて(笑)。また戻ってくるんですよ。火つけないと、これはここまで、これはここまでって、工程もってって、最後のところやるでしょ。だからお客さん「なーんだ」ってことになる。でも、あんまりやると
動物園の猿みたいだね、視線浴びてね。
●彫金の人がこないだ亡くなった
長年やっていた彫金の人がこないだ亡くなっちゃ って、がっかりしちゃった。(その人の後継者は?)いない。親戚がやるっていって 一年たったら「お前やっぱりだめだ、向かないからやめろ」、ほかで食べられるよう
に世話してやってね。そういうのも居(る)んですよね、仲間で。貴重な。(ほかの 人を探す?)探してんだけどね。なかなか居ないですよ。鍛金と彫金は兄弟みたいな
もんで、鍛金で成型したものを彫金の人が彫るっていうパターンが昔からのやり方な んですよね。だから、彫金のほうが偉かったんですよね、どっちかというと。こっち
は彫金の下仕事みたいな感じもあったんでね。歴史が彫金のほうが古いんですよ。( 職人が跡継ぎなしで死ぬと技術が落ちる?)ええ。あっそうだ。俺もそうなんだ。
●銀器の歴史
それが問題なんだけどね、けっきょくお大名道具から始まったの。だ いたいね、何でもそうだけど、武器から発達しませんか? 物って。刀剣とか。彫金
なんか、たとえば刀の目抜きとか、小柄(こづか)の柄(え)とかね。いいもんがあ るんですよ。でも、歴史といったら千年以上のは少ないんですよね。鍛金のものは、
いちばん古いのは千年っていう歴史があるんだけど、鎧(よろい)の面頬(めんぼう )っていう、目だけ出ているのがあるじゃないですか。あれ鉄でね。あれが始まりだ
っていうんですけどね。
●ツタンカーメン
ツタンカーメンのは、あれ何千年前ですか。砂金っていうのは、 そのまま金ですよ。それを溶かして固めれば簡単に出来るから、金が出たところだか らああいうのが出来た。銀っていうのは精錬(せいれん)しなければ出ないもんだか
ら問題ですよね。(ツタンカーメン見て心うごく?)でも、技術的には大したことね えなっていうのがありますよ。デザイン的にもねえ、しょうがないからこのデザイン
にしたんだなって。そんなこと言うと偉い先生に怒られちゃう。 <商品説明> ※説明から商品ページにリンク
●花器
これに花をどうやって入れるの、って感じですよね。銀です。「金消し」っ ていって、奈良の大仏様を金にしたのは、水銀つかってね、塗って焼くんですよ。そ
ういう工法なんですけど、いま水銀うるさいからできない。(流れる模様は?)うず 潮。勝手につけたの。結構ダイナミックでしょう?あれ、金槌でみんな作る。あの
面、この面、みんな違った金槌で。二キロ近くあります。厚みって大事なんですよね 。厚みと重さね。でも、花卉は使うもんじゃない、それだけ置けば置物だよっていう
傾向があるから、そういうのは花入れる人は買わないね。使いにくい。銀の花卉は、 イオンだとかで、花がもつっていわれてんです。
●茶釜
色をつけてあるんです。ブツブツの出し方は、きれいに香炉みたいに並べた ほうがね、いいんです。こういうもの作るのに、自然のイメージで、たとえば栄螺(
さざえ)の格好にしたり、やることがあった。貝見るといいんだけど、作ると気持わ るい。やっぱり流れたほうがいい。縦横(たてよこ)に線を引いてやるんですけど、
縦横関係なく、斜めがわかる。そういうものになるんですね。だから、縦広くするか 、横広くするか、それで変ってくる。あとは、周りの形のアール(R)で変ってくる
。面白い。(出来上がりがわかる?)いつもやってるものはわかりますよね。形が違 うと、違ったのができたりね。真ん丸の球でやったりすると、また変る。それが面白
いっつうことなの。長年やっててもね、効果が、こうやればこうなるとわかんない場 合もある。
●香炉
ブツブツ出てるでしょう。面白いんですよ、あれが外から叩いてなんで上に 出るのっていうのがね。あれ東京で三、四人しかやってないんですよ。みんな知って
る仲間ですけどね。それが、それぞれ教えないっていうか、見せない。やるとこを。 (もしかしたら違う方法で?)かもしれない。恐らくみんな違うと思う。大げさに言うと、職人が、職人に教えない。(蓋についてるのは?)狛犬(こまいぬ)なんだけ
ど、あたしの注文で、(顔を前に出し)こういう顔、こういう狛犬って言ったら、面白いの彫ってきましたよ。あたしがモデル。ろくなもんじゃない。
●香炉2
金と銀と混ざってます。指輪とおなじコンビです。ちっちゃな香炉なの。い ま香道流行っているんですよ。静かなブーム。ひとり香道具専門の人がいますよ。そ
の人は叩いて作らないものが多いんだけどね、でも面白いもの作ってますよ。香道具 って、細かい、火箸(ひばし)なんか櫛みたいでね。俺の手じゃとても持てないのと
か。香道もやると面白いんですよ。ただ、いやなのはね、硯が出てきて、筆が出て、 書かなきゃなんない。俺、お習字へたなのに。あれには参った。

●ぐい呑み
ちっちゃいけども、いろいろできるんですよ。花器といっしょ。決まり が無いんですよ。ぐい呑みはお酒が入ればいい。花器は花が入ればいい。茶釜だと、
茶釜っ! ていう感じでやらないとなんない。だから、いろんなもんができるんで面 白い。
●徳利
(持ち手のところは?)あれがまた問題だよ。ふつうの籐(とう)なんです よ。昔っから薬罐(やかん)の籐を巻くでしょ。下に薄い和紙をきれいに巻いて、そ
して籐を巻いてある。持つと熱いから、熱どめ。(見た目だけじゃない?)そうなん です。ところが、それを見た目美しくするのが工芸じゃないですか。それがね、でき
ないの。やる人がいなくなってしまった。やる人がいなくなったら材料を作らない。 だんだん結果が悪くなる。材料自分で買ってきている人もいるんだけど、それほど需
要が無いから。九十ぐらいのお婆さんで上手な人がいたの。その人が「もうやめた」 って言って、なぜだって訊いたら、材料が無い。今、われわれの金銀はいいですけど
、木工関係とかね、そういう関係は。いま籐工芸って流行ってるでしょう。あの籐は あるんですよね。籐巻きにする材料がない。(籐巻きを)やっても、幾らにもならな
い。だからやらないんですよ。伝統産業の駄目になるのは大体そういう傾向が多いで すよ。手間かけて、飯(めし)も食えないっていうような感じの仕事がけっこうあるから
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