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鉄が削れ無いと刃は駄目なんです
背丈が四センチ縮んじゃったもの、年取ったら
俺で、刀鍛冶の時代から入れて十一代
うちの鉋はだいたい職人さんが三点は持ってますよ
1850年代のヨーロッパで精錬された鉄なの
駄目だったら捨てちゃう、屑鉄になっちゃう
鎌だの包丁だの鉈を作って農村へ持っていって
指図される立場なんて嫌だもんね
出刃包丁は鉋とおんなじ作り方で
体がもう全身これ筋肉っていう感じね


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鉄が削れ無いと刃は駄目なんです
これは柳包丁。これから焼き入れてね、研ぎ入れて。まあ大体うちは焼き入れて、あとは研ぎに出しちゃうんです、大阪の堺って所へ。(昔ながらの作り方?)そうです。(刀鍛冶の流れの?)そうです、ええ。うちは古代から刀鍛冶なんですよ。だけど明治の頃に維新でもって武士が廃業しちゃったでしょう? 全部。それで刀が売れ無くなっちゃって。それでこの大工道具に転換しちゃったんです。(鉋に?)ええ。だから鉋ももう百三十年近く経っています。それで今度は鉋がちょっと売れ行きが悪くなってきて、こういう包丁を作り始めたの。これはまだ日が浅いんです。まだ十二、三年ですね。(親方の鉋の特長は?)切る木が硬くても、コンマね、ええと十分の一以下の削り屑を出されますから。(何のコンマ?)一ミリの十分の一です。(指物屋さんで薄い削りくずを見た)そう。あれが出ないと、あの品物がねまとまらないんです。だから、この刃の先端に焼き入れますとね、鉄が削れるんです。(鉄が削れる?)うん。鉄が削れないと刃は駄目なんです。鉄が削れないと木は受けつけない。木は鉄より硬いですからね、基本的に。

背丈が四センチ縮んじゃったもの、年取ったら
鍛冶屋なんて所詮は腕力仕事だから。(力の要る仕事?)だんだん力が無くなるから、年取ると。これ鋼(はがね)、今乗っけたでしょう? それで叩いちゃうでしょう? ・・・火花が飛ぶから気を付けてください・・・そうするとくっついちゃう。もう絶対離れない。硼砂と硼酸と鉄の粉が入ってるんです。それが880℃ぐらいで溶け合いますからね。それで、そこ叩いちゃうから、密着しちゃうんです。言やあ簡単だけどね、やってみると鋼がくっつかない。うちに随分若い人が何人も来たけども、物になったの居ないから。それでこういう一瞬の仕事でしょう? だから駄目なんだよ。時間かけて出来れば別だけど秒の仕事だから。うちみたいな所何軒か取材した? (鍛冶屋は初めて)違うでしょ? 他の職人とは。腕力が無いとねえ。だってねえ、背丈が四センチ縮んじゃったもの、年取ったら、うん。胸周りがねえ、若い時は一メートルね十四センチあったの。今、十センチちょっと切れるもん。やっぱしねえ、力が無いと駄目よ。だから俺の叔父さんっていうのが、母の弟が連隊で三番目だったから、大きさ。連隊わかんねえか。もうそれこそプロレスラーの坂口って言うの居たでしょ? ああいう体してる。俺だって食い物がもうちょっと良きゃ・・・。
俺で、刀鍛冶の時代から入れて十一代
(昔からこの場所?)うちはこういう機械を導入したのが親父の時代で昭和十五年。一日に軍刀を人海戦術で五十丁作ってた。戦災でその機械が焼けたのを親父と二人でペーパーかけたりなんかしてやったんだけど、駄目でね。もう一回火かぶっちゃったの、戦災で。昭和二十年のね、五月の二十三日の夜の空襲で。(どこで?)恵比寿で。だから焼け野原になっちゃって、向こうから省線電車が入って来るのが見える。それで恵比寿もずっと平成七年の七月三十一日まで仕事してたんですよ。それでここ(小山)へ。恵比寿でなんてもうこんな仕事できないですよ。あそこは準工業地域だったから。相当大きい機械まで使えた。あそこは岩盤の上でもって、叩いて鉄床(かなとこ)が緩まなかったんですよ。ここもだいぶいいんだけど十年、十五年はどうか、ねえ。これだけの力で叩くからねえ。今は息子と二人でやってる。(親方で何代目?)俺で、刀鍛冶の時代から入れて十一代。だけどその前に消してある人が何代かあるんだよねえ。だからどこまでほんとだか。吉宗の腰の物を作った人から勘定して俺でもって十一代目。だから享保の頃ね。その前があるし、その前もあるの。上野の博物館で残ってる刀は室町の中期だって言うから、もう四百五十年以上なんのかなあ。俺はそんな古い事関係ないもんね、うん。昭和と平成の時代過ごしたんだから。でもね、こういう技術は連綿として繋がってんだよ、今だに。(道具も全部恵比寿から持って来た?)違う、こういうのは全部新品にしちゃったの。持って来たっていうのはこれと、この機械だけ。あとは全部うっちゃっちゃって。こういう機械取り外したらもう駄目なのよ。こういう機械は全部、町工場でできるの。(床は土?)そう。土のまんまじゃないと駄目なんです。真っ赤な鉄放り出すとね、コンクリートみんなひび入っちゃう。

うちの鉋はだいたい職人さんが三点は持ってますよ
俺、仕事ができるのはあと十二、三年だと思ってっけどねえ。息子が一人前になってやればと思ってても、消費税が付いちゃってから急に景気が悪くなっちゃってね。けっこう消費税前は売れましたよ。消費税が付いてから急に売れ無くなっちゃったもの、どっこでも売れ無くなっちゃったもんねえ、デパートでやっても売れないし。まあ俺、売るのなんかどうでもいいと思ってるんだけど。(作るのが楽しい?)楽しい。(職人さんに直で売る?)いやあ、ほとんど鉋は問屋です。(大工さん用の鉋?)そうです、プロ用のね。(削る木によって鉋を変ることがある?)ありますね。だから、うちの鉋はだいたい職人さんが三点は持ってますよ。この鉋はこれに合う、この鉋で削ると艶がいいからって言うんで、使い分けていますよ。

1850年代のヨーロッパで精錬された鉄なの
この鉄はね、ええと1850年代のヨーロッパで精錬された鉄なの。今ここに有るのはドイツ製、ええ。それがすごい純度がいいんですよ。(それを使う?)そう。(純度が良く無いとだめ?)吟味しないと、そんなコンマ十分の一ミリ以下の屑なんか出て来ないんですよ。(材料はさびてても大丈夫?)ええ、大丈夫です。(新しい鉄は駄目?)新しい鉄は駄目。(そういう市場がある?)無いんです。ゆってくるんですよ、向こうから。その建物だの鉄橋が出来た年代を向こうでだいたい言うから、それで自分が行って見てくるの。(ドイツとかアメリカまで?)いやいや日本で。もう一目見るとね、鉄の色が違うからすぐわかんの。それこテレビのお宝鑑定団みたいな目利きが出来なきゃ駄目、鉄に対し。(包丁は新しい鉄?)あれは鉋にならない鉄で作ってる。(よそで作る包丁は?)あ、よそは現代の鉄使ってんじゃないですか、あの錆びる包丁は。(指物屋さん行くといろんな鉋がある?)うん、ちっちゃいのかっら大きいの。(親方はぜんぶ作る?)うん、俺頼まれればたいがいの鉋は作ります。刃がこんな幅が狭いので、こんなのあるでしょ? あんなのまで作りますよ。あれは鋼ぺたっとくっつけといて、赤くしといてこの機械でぶつぶつ切ってっちゃう。それで一個ずつ仕上げてね。幅が一寸以上になると一丁ずつ作っていった方が早いけど、一寸以下の物は切ってった方が早い。(あっという間に切れる?)赤くなってっからね、うん。もうそれこそ羊羹切るみたいに切れる。

駄目だったら捨てちゃう、屑鉄になっちゃう
(秒の仕事とはどの部分?)そうねえ、赤くなって叩いてる、一瞬ですからね。ハンマーの下の鉄床の上に真っ赤なの乗っけるでしょう? ハンマーがどんとおっこってきた時に、もう品物になるかならないか決まる。(やり直しはきかない?)きかないです。駄目だったら捨てちゃう、屑鉄になっちゃう。だからそれを続けて出さないようにやんないとね。(修行が難しい?)だから修行する時は、下手な鉄砲も数撃ちゃ当る、で材料を全部無駄にさせる覚悟でやらないと。(何人か若い人が駄目だった?)そうね。一番ひどかったのは二トン車のボディいっぱい屑鉄の山作って。それでもとうとうものにならなかった。火がこうやって、いい色に赤くなってこない。温度がちょっとでも過ぎると鋼がバラバラになっちゃうんですよ。上に乗っけたでしょう? 薄い鉄板の板、あれが鋼なんですけど、バラバラになっちゃう。それで、ちょっとでも温度が下がっると今度はくっつかない。(火加減を見ながら?)そう、火加減を見る事ができるか、できないかに関わって来る訳。


鎌だの包丁だの鉈を作って農村へ持っていって
(息子さん今いくつ?)三十四なんですけど、なかなか。(何がなかなか?)困っちゃいますね、難しくて。俺だって今の時代に生まれて来りゃ、のんびりしてっかもわかんないですよ。だってあの焼け野原で食い物も無く、刀終っちゃって、親父と二人で機械は一応使えるように整備したんだけど、電気が来ないんでねえ。槌叩いてね、鎌だの包丁だの鉈を作って農村へ持っていって、あの飢えの時代しのいでましたよ。(職人は売る物があるからいい?)サラリーマンの人たちは奥さんの着物やなんか持ってって。(竹の子生活?)そう、して。食べ物が無いぐらい悲惨なことはないですよ。(でもあの頃って思い返すとそんな辛くないのでは?)(おかみ)私そう思いますよ。今の方が面白くない。っていうより、今のこの生活を維持していくのはお金が大変でしょ? 消費税がついちゃってから稼がしてもらえなくなっちゃったから

指図される立場なんて嫌だもんね
こうやって相対でもってお喋りしてるぶんにはいいけど、集団の中に入るのが嫌なのね。(わあわあ喋る奴がいると?)うん、「うるせえ! そんなことどうでもいいじゃねえか」。(おかみ)独りで物を作ってきたからね。(親方)職人が七、八人いた時は、俺が「お前これやれ、ここんとここういう風にやるんだよ」って指図する立場ならいいですよ。指図される立場なんて嫌だもんね。もう子供のときからそうだから、余計嫌ですよ。俺の言うこと納得できるよね? あ、俺って言っちゃいけないんだ、あっしって言わなくちゃ。江戸言葉で親父がよく言ってたから、あっしあっしって。親父が死んだらみんな子供喜ぶんだから、どこの家庭だって。ああうるせえの居なくなった。(おかみ)自分がそうだから人のことを。(親方)第一うちのお袋なんて親父が死んだらせいせいしたって言ったもんね。生きてる間は一生懸命夫婦を演じてるけど、亡くなっちゃえばもうそんなのどうでもいいやと。(おかみさんはどう思う?)(おかみ)いや、私はちょっとこの人の事理解できないから。こういう夫婦も珍しいと思うけどね。ほんとに性格が正反対、丸っきり。(おかみさんは外は大丈夫?)あたしは平気。あたしは商売。(いい組み合わせでは?)よくもこんなに合わないでこれだけ来たなと思って。(どこの夫婦もそう言ってる)そうでしょうかね。(だから亭主が定年退職した途端に離婚する)あれも理解できないんだけどねえ。(普段からいろいろ溜まっているから)まあ、あたしたちは毎日こうやっていっしょでしょう? (親方)男のほうは俺が稼いで養ってやるんだって言う頭があるじゃん。そんな頭だから退職離婚になっちゃうのよ。あんなものお互いじゃん。母ちゃんがご飯作ってくれて俺が稼いで、そのお金でうまくいってりゃいいんだから。(おかみ)そんなとこまで思ってくれるかね。(まるでテレビ番組!)(親方)でもこういう仕事してると楽しいですよ。雑念がないでしょ? これだけやってね(売れてなんぼ?)そう。物作るって言うのは基本的にそうですよ。コンピュータ一台売れていくら、戦車一台売れていくらですもの、しょせんは。(職人さんは売れないって言いながらうれしそう)うん。

出刃包丁は鉋とおんなじ作り方で
(職人さんから直接は頼まれない?)うん、道具屋に買いにくみたい。(それで石堂さんの刻印見て?)(おかみ)うん。(鉋の台や包丁の柄はどこかへ頼む?)(親方)台は台屋さんへ頼むんです。包丁の柄は自分で、柄屋さんが作ってくるのを入れちゃう。(削り節の箱は?)箱は箱屋さんで。(おかみ)これいいでしょう? この箱。こないだこれを七十二のお爺さんが、自分が亡くなった後も思い出してくれるっていう事で二十五台注文。(家族や知り合いに配る?)そう。小学校の友達とか同窓生とかにあげるんですって。(刃物をあげるのはなかなか面白い!)うん。(この包丁は?)それは三得包丁。(三つ得がある?)そうです。お魚も切れる、菜っ葉も切れる、それから肉も切れるっていう三得、万能包丁ですね。(包丁の用途によって鋼のつけ方が違う?)いや、菜切り包丁とその三得包丁は鋼のつけ方おんなじです。出刃包丁は鉋とおんなじ作り方で。

体がもう全身これ筋肉っていう感じね
これ全部焼けどの痕、若いときはね綺麗だったんだけど年取って来たらこんな汚くなって来ちゃった。(素手でやってる?)素手じゃないとねえ、駄目。スピードが出ないから、もたついちゃって。指袋やって。(あれは溶け無い?)あれ指先がどうしてもささくれ立っちゃうから、痛いから。夏はそうでもないんだけど。(叩く時にバチンと何が飛んでいる?)あれは、叩かれると、専門用語で金肌って呼んでるんですけど、薄いかすが浮くんです。それを水付けて叩くと爆発でもって全部吹っ飛んでっちゃう。鉄の粉ぜんぶ吸い込んで。(力仕事で体痛めたりしない?)無いですねえ。若い時なんてオートバイでひっくり返ってヘルメットにひびが入ったって骨折もしなかったもん。やらかいんじゃない? 骨が。硬きゃダメージ受けるかもしれない。そうね、やっぱし指先にね力が無くなりますね。重い物持ってっから。指先がほんとに細かく動かない時がありますよ。それで体がもう全身これ筋肉っていう感じね。

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