●アマチュアさんが使うものではない
うちの品物はどちらかといういと、アマチュアさんが使うものではないんですね。た だ、レザークラフトなんかでね、アマチュアさんも使いますけどね。(刃物だったら
何でも作る?)いえいえいえ、これがもう八割以上、九割です、今のほとんど主流。 皮、ゴム、木工、ワイシャツなんかの裁断とか、そういったものに使うんです。(ゴ
ムっていうと?)そうですね、ゴムはね、いろいろですよ。たとえば、タイヤを作る ときに、最終的にバリが出るんですよね、タイヤの外側にちょちょちょっと、そうい
うもののバリ取りとかです。(大きなタイヤメーカーも手でやってる?)ちょっとそ れは、直かには入りませんから、中には業者が入りますからね、わかりませんがね、
そういう話は聞いたことがあります。(バリ取りで沢山売れる?)うん、そうですね 、問屋へ納めて、その辺から動きますけどね。(何包丁って言う?)皮裁ちって言い
ますけどね。あとはね、あの合板、今あの建築材で木目をプリントしたものがある、 それをベニアに張って商品化するらしいんですけど、そのときのちょうど木目合わせ
ってありますよね? それがね、ぴたりと目が合ってないと商品として価値が無いそ うですよ。そのときにシャープな刃物じゃないとピッタリ合わない。あとはピアノ、
私なんか聴いてびっくりしたんですけども、たとえば浜松の方のね、最終仕上げに一 発でスッとなんかやると、艶(つや)が出るそうですよ、ペーパーで磨いたりしない
で、そういったもので大変艶が出て、仕上がりが良いとかって。(燧さんの知らない 所で使われる?)そうなんですよね、だから、そういうも用途もね。普段は一般的に
は皮の手袋ですとか、ベルト、帽子、まあちょっと用途はねいろいろ、いろいろです ね。(足袋屋さんの包丁は?)丸い包丁ね。あれも、昔はやってましたけどね、今は
やっぱり需要が少なくて、どんどん限られちゃいましたね。(皮裁ち包丁はどのくら い前から?)これはもう古い、先代からですね。だから、大正ぐらいからですかね。
(二代目?)三代目です。(初代は違う包丁を?)まあ、その時代時代によってね、 鎌ですとか、ええいろいろ家庭の包丁もやったでしょうし。でも、今は八割以上・・
・。(残りは?)もうほんの、今お話しになった足袋を作る丸いのがあるでしょう? でも微々たるもんですね。
●お殿様のお抱えの刀匠が居た
(三代目というともう百年?)ですね。もともとは福井県の武生(たけふ)市ってあ るでしょう? そこの出身なんですよ。先々代がね、そこから出てきて。(名前を継
ぐ?)それはないです。ただ、包丁のブランドだけ継ぐんですけど、秀次(ひでつぐ )ですね。(苗字の燧は?)これはねえ、もう昔から。火打石のひうちって言うんで
すけどね、ですから、なんか関連があったんでしょうかね。親父たちの話によると、 昔は刀鍛冶だった。武生に出城がありましてね、その御藩鍛冶に、要するにお殿様の
お抱えの刀匠が居たらしいんですね。その中に入ってたという話は聞いていましたが 、真偽の程はわかりません。(三代目で元は刀鍛冶?)みんな刃物関係の人はそうい
うかたが多いですよね。たいへん珍しい名前ですよね。(武生に同性は多い?)それ がね、少ないんですよ、親戚だけなんですね。福井県の今庄町(いまじょうちょう)
に燧ヶ城跡(ひうちがじょうし)があり、燧の地名もありますので、その関係かもし れませんね。(親戚一族で刀鍛冶をやってた?)その辺どうでしょうね。今はそれぞ
れ、こういう時代ですから、サラリーマンとかしてますけどね。(包丁作るのにも鍛冶をする?)昔はそうでしたよね。今はね、もういろんな方法がありましてね、たと
えば量的に昔のような作り方しても間に合いませんでしょ? まあ、感覚的なものも ありますしね。ですから機械加工も結構あります。正式に言うと伝統工芸振興会は完
全な百パーセント手作りでなくちゃいけないと思うんですけども、やはり品物によっ てはそうばかりは言ってられないですよね。ただその伝統的な製法に則って、という
風なところですよね。(二百年経たないと伝統工芸の技術にならない?)東京都の伝 統技能師っていうのは、そういう風な規格があるようですね。(刃物にも?)もちろ
んあるんですよ。百パーセントハンドメイドのものでなければいけない。昔の鉄鋼で なっくちゃいけない、ですけど今はステンレスもいっぱいありますでしょ? ですか
ら、そうも言ってられない時代ですよね。それとあと、要求されればね。
●靴屋さんの修理
(ハンドメイドも作る?)ええ、やっぱり要望がありましてね。素材の問題もあるん ですよ。たとえば、専門的になっちゃうんですけど、普通のSK材という炭素鋼だけの
鋼(はがね)と、それからSKSといいましてね、少しクロムとかモリブデンとか特殊 なものが入る材料とか、そういったものはやはり昔の倍もあります。あとは量的な問
題なんですよね。量をたくさん作る場合には今の技術で十分に補えますし、それなり の仕事も見つかりますから。ただ、ハンドメイドも一応のかたちとしては則って、流
れてはいるんです、ええ。(それは本当に特注?)なりますね、そういうのは。まあ 量産ではなくてですよね。(そういう包丁は切れが違う?)うん、確かにね、特殊鋼
は刃持ちもいいでしょうし、ただ今度は、どうしてもハンドツールですからね、手研 ぎになりますからね、そういうのが多いですからね、研ぎ易さがちょっと難しくなり
ますね。昔からの単なる炭素鋼の方が早く、研ぎ易さというか、そういう点はありま すよね。まあ痛し痒しでしょうね、ですから。よく靴屋さんの修理、いま昔ほどない
けど、そういうのによくうちのを使いますよね。(底を打ってから周りを切る?)そ うそう、それも今はもう、デパートなんかにあるじゃないですか、手安く、接着剤で
くっ付けてね、そういう方法もずいぶん変わってきましたからね。
●男の方好きな人多いんですよ、刃物はね
(あれは?)あれは台湾の登録商標なんですけどね。結構台湾に行くんですよね。(
世界中に売る?)世界中って言っても、私は直接的には台湾ですね。台湾からまた出 ていくようですけどね。あとスポットでシンガポールですとかね、東南アジア系が多
いですよ、やっぱり。シンガポールからタイランド、マレーシア、その辺が需要があ るようですね。(燧さんの技術がいいから?)そういうことかもしれませんね、評価
されているのを見てもね。(素晴らしい!)もう長いことやっていますから、もうそ の辺の所が、ええ。(あとの二割は何を作る?)ええとね、今ほとんど動かないんで
すけどね、需要がゼロに近いことですけども、たとえばボタン鑿(のみ)ってのがあ るんですけどね。そういう特殊なものもありますが、もうほとんど今動かなくなりま
したからね。(別な包丁を手に)昔はこんな包丁がよく使われたんですけどね、ぜん ぶぐるりと刃が付いてるんです、槍みたいでしょう? これはワイシャツの襟のとこ
ろ。やはり今は量産ですけども、特殊な高級品はね、もっと小さいんですよね、何百 枚、そうすると手裁ちでこういう包丁使うんですよ。これも幅がいろいろこうあって
。(皮裁ちは皮だけ切る?)皮だけじゃないんですね、名前は皮裁ちって言うんです けどね、いろいろなものに、布もカットしますし、木工にも使えますし。(いい!)
男の方好きな人多いんですよ、刃物はね。危ないんだ! エッヘッヘ。
●少し使いこんだ方が
(包丁は使うと小さくなる?)そうそう、そんでね、手なじみが良くなるでしょう?
そういうところが刃物の・・・みなさんねえ。新しいものよりも少し使いこんだ方 が、大変具合がいいと、そういう話は沢山ありますよね。(手に馴染んでくるから?
)そうなんです。
●この辺はもう勘ですね
(叩いて刃を入れながら)この辺が伝統的なんでしょうね、きっとねえ。ひとつひと つね、なんかいちいちこう感じてないでね、手がそういうふうに動いちゃうんでね。
(叩くのはなぜ?)けっきょく慣性でね、小学校のとき理科で習いましたでしょう? こっちへ入ってきちゃうんですよね。今、理科って言わないのかな。(何歳から作
り始めた?)私はですね、学校卒業したときからですからね。高校、まあ大学一応行 きましたけどね、実際にやり出したのは高校時代、いや私は旧制だから、中学校5年
か。(旧制?)旧制ですよ、私は。ちょうど新制と切り替わるくらい。昭和六年生ま れだから。(一つの工程がもう終わった?)エッヘッヘ、そうなんですよ、この工程
は、非常に簡単に見えるでしょうけどね。(今のは穴を?)ええ、調整してるんです ね、これ。これ全部みんなね、少しずつ違うんですよ。ですから、込みでだいたい見
てね、合わせるんですけどね。この辺はもう勘ですね。緩くてもすぐ抜けちゃいます しね。ただ叩いているように、見えるでしょうけどね。(その木の棒は何を?)それ
はね、叩くことと、こちらがどうしても狂うんですよね、左右に。それを矯正するた めにちょうどこのように。(目で見て狂ってるのがわかる?)そうですね、パッと見
て、瞬間的に。日常茶飯事だから、なんか習慣的に手が動いちゃうんですよね、ええ 。(工場はどこ?)工場は、今はもう地方でやってるんです。前はここでやってたん
ですけどね、音がうるさいですし、なかなかやってられませんよ。(研磨もする?) そうですね、叩いたり、研磨したりいろいろですよ。
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